RECORD

Eno.103 長谷場 成の記録

薄橙の境界

「そっか、わかった。元気でね」
 オレがそう言うと、彼女は怒った様子で立ち上がり店を出て行った。

「……また振られちゃったなぁ」
 のんびりとグラスに手を伸ばし、氷で薄まったオレンジジュースを飲み干す。

『私のこと本気で好きじゃないんでしょ』
 女の子と付き合うと必ず言われる言葉だ。

 ちゃんと好きなんだけどなぁ。
 可愛いと思うし、一緒にいたいと思うし、触れ合いたいと思うし。
 それで何がダメなんだろう。

 ……本当はわかってる。
 ここで別れたくないと思わないからダメなんだ。
 付き合ってる間は楽しいけど、なかったらないで構わないと思ってしまう。
 それってやっぱり、あの子のこと本気で好きじゃなかったのかも。

「……本気かぁ」
 だって、もし本気を出して、あの子のこと命懸けで愛したとして、それでダメになったら?
 そんなの悲しいじゃない。
 何事においてもそう。本気を出しても叶わなかった時の無力感を、もう味わいたくない。

 恋愛ぐらいは、たった一人の子を愛して大事にして、幸せにしてあげられたらいいのにという少しの憧れはあるけれど。

「まあ無理無理!」
 呟いて立ち上がり、店を出た。
 もうしばらく彼女はいらないかも。悲しませるだけだし。