RECORD

Eno.225 葛山の記録

バールのような物



「お兄、何探してるの」

「え。いや」

 怪奇と戦うには素手じゃ心許ないから、武器になりそうな物を探してるんだぜ妹よ。
 そんな事言える筈もないので、言葉を濁す。

 週末。実家に帰り、序でに倉庫を漁っていた。
 実家は東部地区の修理屋だ。家具や玩具等の修理を承っている。
 だから、工具の類なら幾らでもあるのだ。

「ちょっと壊したい物があってね。それなりの破壊力がある工具を探してる」

「人生とか?」

 別にアウトローになりたい訳ではないんだよね。

「ううん、ちょっと大きめのゴミ。発泡スチロール的な。砕いて捨てたいんだ」

「ふーん……」

 僕の下手くそな嘘でも概ね納得して貰えたようだったが、一応話を逸らしておく。

「最近どう? 学校とかで面白い事あった?」

「えー? 普通だよ。あ、でもクラス替えでね、新しく一緒になった子が……」

 倉庫を漁りながら、新しい友達の話を聞かされた。何やかんや楽しくやっていそうだ、良きかな。
 妹の名前はもえるという。
 現在は中学2年生、この辺りの中学校――僕の母校でもある――に通っている。
 聡明で利発な目に入れても痛くない自慢の可愛い妹だ、と兄馬鹿を発揮してみる。
 どうでもいいけど。

「お兄もクラス替えした? 友達出来た?」

「それなりに。
 何故かクラスの濃い芸人男子勢に周囲を取り囲まれて終わった」

「彼女は?」

「出来てないよ」

 そんな事に興味を持つ年頃になったか。いや、中2ならまあそんなもんか。
 クラスの面々はコクったフられたとか、何かそういう感じの話をしていた気がするが僕には特に関係が無い。

「……本当にー? 女の人と良い感じになったりしてないの?
 高校生でしょ? 何か無いの?」

 ふざけた調子でそんな事を言ってくる妹に、僕は渋い顔をした。

「…………」

 ないと思う。
 そもそも、新学期始まってから女性と関わりなんて……。

「ええっと」

「横暴な先輩にUFO呼ぶのに付き合わされたり、
 クラスの女子と水族館に行ったり、
 優しい先輩と四つ葉のクローバーを探したり、
 他校の女子に家に押し入られて晩飯作られたりくらいしかしてないね」

 蹴りを入れられた。割と強めに。

「痛いよ」

「このクソボケバカカス兄貴」

「いや待って。聞いて欲しい。
 この人たちとの間にはマジで何も無くて……

「……そう。まあ、本当なんだろうけど」

「信じて頂けたか」

「お兄、人と付き合えるタイプじゃないし。
 中身が無くて空っぽだもんね」

 苦笑した。その通りだよ。
 

「そんなに褒めるなよ、調子に乗っちゃうだろ」

「褒めてない」

 冷ややかな声で言われた。無慈悲。
 暫くの間、がさごそがちゃがちゃと物を探す音だけが倉庫内を満たす。

「……あ! これはどう?」

 唐突に、萌は何かを見つけて僕に差し出してきた。
 ある程度の長さがある鉄製の棒――所謂バールのような物だ。バールかもしれないけれど。
 兎も角、中々手頃な得物なのではないか。

「おー。良いじゃん。これ借りよう」

 これに決めた。
 そして、僕は父さんの所へ断りを入れに行き、それを借り受ける事に成功したのだった。
 武器ゲットだ。