RECORD

Eno.636 二三木 多々狸の記録

むかしむかし:弐

むかしむかし

夕暮れに差し掛かる頃、空き教室で一人の女子生徒が居りました
机の上には鳥居と文字の書かれた一枚の紙、十円の小銭
それはそれは緊張した面持ちで、指を小銭に乗せて決まった文句を唱えました

「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」


「こっくりさんはそこに居ますか?」


するとゆっくり、しかし確実に小銭が動くのです
辿り着いたそこには『はい』と書かれた場所。生徒の緊張も深まります
おまじないは間違いなく真実であったのだと……疑う気持ちは失せたもの
決心がつきました。彼女の探し物をこっくりさんに尋ねる時です

「■■はどこに居ますか?」


それは二日前から姿を見なくなった友人の事。家族も知らなったその行方
生徒にとっては唯一の友と言えるものでした。失踪捜索も待っていられない程

重い期待を乗せた小銭。軽い震えと共に、それが向かう場所は鳥居の方面
答えてくれないの?そう、不安表情を浮かべた少女の頭に過ったもの
それは、それは、うつろな瞳でこちらを覗く、地面に転がった少女の頭

ひぃ。生徒は声を上げ、恐怖のあまりその指を離してしまいました
あれがこっくりさんの答えなら、だとしたら、彼女はもう……

くしゃくしゃにと握りしめた紙と小銭とを鞄の中に突っ込んで、足早にその場を逃げたのです
自宅でただ震える生徒。もうだめだ、これは悪い夢だと、忘れなければと
しかしていまだに苦しめられるのです。あの時重なった少女の瞳がまるで

「わすれないで」


問いかけてきている気がしてならないのです、と

えぇ、えぇ

実のところ、今回呼び出されたこっくりさんとは罰をうけた狸のヤツでして
その一回、こっくりさんとしての権能を押し付けられた魂がその償いを求められておりました
一回分のお供えだから、と安直な発想ですが。委ねられた力は中々のもの
ひょいと県を跨ぐのはもちろんの事、信仰と言う名の神秘を扱えるだけの能力を与えられましてね

野生ながらもこっくり狸、『願いを叶えればいい』となんて考えた
えぇ、早とちり。そんなに安い話じゃございませんよ

『■■はどこに居ますか?』


言葉で示すべきだったのです。思念で浮かんだその姿、場所、それらを文字で伝えるのがこっくりさん
しかしてそいつは失敗した。思念そのままを相手に伝えてしまった。だって、『出来る』から
あれよあれよと逃げ帰る、生徒の背を教室の中で魂のみが見つめてる

さて、ここでこっくりさん。これはルールが多い事でも有名。願いを叶える上でのマナーとも言いましょう。こちらはその一例です

"一人で行ってはならない""途中で指を離してはならない""こっくりさんを帰さなければならない"

お見事!これらを一気に破る大目玉。真っ当な霊ならここで祟り殺し待ったなし
しかしてそいつは失敗した。思念に浮かんだ少女に憑いてみたいと思った。だって、『出来る』から
実際は、現場は凄惨な事でしたが。何に惹かれたかこの雄はふらりと彷徨い夕暮れ時

流石の狸も線路沿いから離れた骸を見れば気付くもの。彼女はもう帰ってこない
しかしてそいつは失敗した。死体を内側から神秘で直せばいいじゃない。だって、『出来る』から
思い立ったものを実践してしまうもの。衝動は好奇心故、或いは……

「よし、これで……成功したんか?」



後の結末は、あらかじめの通り。これにて"起"は終えました
次は"転"。果たして、二三木 多々狸は一体ありゃなのでしょう?