RECORD

Eno.162 網戸レンの記録

#0 苦い初夏のある日

5月×日 雨

ラバーの匂いがする部室で、僕は後輩用のラケットを見繕っていた。
長い事基礎練習ばかりやらせていたけれど、そろそろラリーくらいはってことで、
先輩から用意するよう言われていたからだ。

最初は、ネットを入れた袋かな?と思った。
けれど取り出した布がほのかに甘いコロンと汗の香りを放っていた事から、
それが後輩の……それも、女子生徒のジャージである事が分かった。
なんで着替えが此処に?と思った矢先、突然ドアが開いた。

恐らく持ち主であろう女子生徒が、僕を見て赤くなったり青褪めたりをしていた。

「ちがっ……!」



僕は勘違いをしてほしくないだけだった。
況してや大声なんてあげられたら、これまで積み上げてきたものが台無しになる。

だから僕はその子をドアに縫い留めて、口を手で覆った。

そこから先のことは、あんまり覚えていない。
気が付いたら僕は先輩たちに取り押さえられて、女学生は泣いていた。
僕は誠心誠意を込めて誤解を解こうとしたけれど、
言葉を尽くせば尽くすほど、周りからの冷ややかな目は白くなるばかりだった。

それから……


「それから僕は、学校に行っていない」



普通にしていれば県大会も夢ではなかった部活もそれきりで、
僕は独り家で受験勉強に明け暮れ……なんとか多摩高専に受かった。

問題なのは、僕の通っていた中学からもそれなりの数が進学していたことだ。
僕の冤罪がそいつらによって広められているかもしれない。
そう思うと僕は怖くなって、毎朝家を出ては学校へ行くフリをしてあてもなく彷徨っている。

「全部……全部あいつらが悪いんだ」



僕は悪くない。僕はそんなつもりじゃなかったのに。
あいつらが僕を悪者にした。あいつらが僕の全てを奪った。
誰も、誰も僕の味方をしてくれなかった。友達だと思っていたのに!


誰も 誰も僕を分かっちゃくれないんだ。
僕に会いに来てくれたあの女の子だって……ずっと一緒だって言ったのに、あんな……
あんなひどい事に…………

どうして周りは、僕からすべてを奪っていくのだろう?
みんなああも恵まれていて、毎日楽しそうに笑っているのに。

「僕にだってひとつくらい なにかあってもいいだろ?」