RECORD
Eno.31 珠洲枝 暁近の記録
ゴミ拾い、なんてごくありふれたボランティアだ。
道端だったか、学校の掲示コーナーだったか──あるいはその両方かも。
貼られたチラシに、どこかでまったく同じ内容を見かけた記憶がある、ってくらいには。
ノーブル会美化運動推進係、と書かれた依頼。
国営公園の遊歩道で清掃をしてほしい、というだけのシンプルな頼み事。
俺がそれを見つけても目の端に入れるだけで受け流していたのは、
本当に単純に学連が違うからってだけの話で。
これがたとえば町内会のクリーンデーだったり、知り合いからの頼まれごとだったりしたら、
もっと早くに手を出していたのかも。
特に報酬はないにしたって、いいことには違いないし。
国営公園なんて、家と同じ南区だ。
まふの散歩でだって何度か来たことがあるし。
まして自転車のひとつも漕いでいけば、さほど時間のかかる場所でもないんだから。
それでも実際のところ──
俺が初めて遊歩道で、ゴミ拾いの役目を果たしたのは。
市が『クライアント』の提示した案件をまとめて、俺に届けたのがきっかけだった。
だから、
︙
ふと、考えてしまった。
今俺と同じようにゴミを拾っている、親切で勤勉な人たちのうち。
いったい何人が、俺と同じきっかけでここにいるんだろう──なんて。
.
.
.
その日の夜には、カレントのほうに顔を出した。
休日前夜だからかそこそこに人は多く、
表でよく知る人や、こないだ行った時に見かけた顔もちらほらあって。
それで──どこだかで何か危ないことがあったらしい、とかから始まって、
なんだかんだ、なんだか難しい話になっていた。
露払いって言い方はどうなんだろね、とか。
大多数がどうだの、民主主義がどうだのとか。
一番は自分の安全でしょ、と言う人もいれば、
それがやりたくてここに来てるんだ、と言う人も。
俺は──思いつくことを口にはしてみたけど、なんだかしっくりはこなかった。
ぽんと飛び出た『歯車』って単語に、一番ざわざわしたのは、
もしかしたら俺自身だったかもしれない。
もっと嫌な気持ちになった人がいたなら、申し訳が立たないな。
自分でここに所属すると決めておいて、社長の言い草に納得がいかない……なんて
考えている俺は、考えなしだったんだろうか。
別に無理を強いられたわけじゃない。
他に道がなかったわけでもない。
選択肢だってあったはずで。
たぶん俺の『決め手』は、今振り返ってみるなら、
……知っている人がいたら心強いから、だった気がする。
それは、大多数に流されたことになるのだろうか?
放り投げられる『頼まれごと』はまだ、堂々と胸を張って、簡単に受け止められるものばかりだ。
これから先もっと『ちゃんとした』何かがあったとしても、
俺たちにだって拒む権利くらいはあって、
抵抗があるものならこなさない、と決めたってかまわない……はず。
でもそれは、俺が決める、俺だけの話だ。
他の人たちが決めたことを覆す権利は俺にはない。
そこで選ばれた道が、どれだけ危険なものだったとしても。
最初に俺が受けた依頼の報酬は、ただの金銭だけじゃなかった。
武器があって、防具があって、痛みを誤魔化す薬があった。
その事実に、一瞬胃の底が重たくなったことを──
たぶん俺はこれから先も、忘れないんだと思う。
もしかしたら。そうだといいな、って思ってるだけなのかもしれないけど。
2025.05.23 ざわつき/胃の底のぐるぐる
ゴミ拾い、なんてごくありふれたボランティアだ。
道端だったか、学校の掲示コーナーだったか──あるいはその両方かも。
貼られたチラシに、どこかでまったく同じ内容を見かけた記憶がある、ってくらいには。
ノーブル会美化運動推進係、と書かれた依頼。
国営公園の遊歩道で清掃をしてほしい、というだけのシンプルな頼み事。
俺がそれを見つけても目の端に入れるだけで受け流していたのは、
本当に単純に学連が違うからってだけの話で。
これがたとえば町内会のクリーンデーだったり、知り合いからの頼まれごとだったりしたら、
もっと早くに手を出していたのかも。
特に報酬はないにしたって、いいことには違いないし。
国営公園なんて、家と同じ南区だ。
まふの散歩でだって何度か来たことがあるし。
まして自転車のひとつも漕いでいけば、さほど時間のかかる場所でもないんだから。
それでも実際のところ──
俺が初めて遊歩道で、ゴミ拾いの役目を果たしたのは。
市が『クライアント』の提示した案件をまとめて、俺に届けたのがきっかけだった。
だから、
「初めて参加するけど、結構参加者多いんだなー……」
「…………、」
何か考え込みかけて、軽く首を振った。
「拾うかあ。
見た感じあんまなさそうだけど、落葉とかもあるだろうし」
ふと、考えてしまった。
今俺と同じようにゴミを拾っている、親切で勤勉な人たちのうち。
いったい何人が、俺と同じきっかけでここにいるんだろう──なんて。
.
.
.
その日の夜には、カレントのほうに顔を出した。
休日前夜だからかそこそこに人は多く、
表でよく知る人や、こないだ行った時に見かけた顔もちらほらあって。
それで──どこだかで何か危ないことがあったらしい、とかから始まって、
なんだかんだ、なんだか難しい話になっていた。
露払いって言い方はどうなんだろね、とか。
大多数がどうだの、民主主義がどうだのとか。
一番は自分の安全でしょ、と言う人もいれば、
それがやりたくてここに来てるんだ、と言う人も。
俺は──思いつくことを口にはしてみたけど、なんだかしっくりはこなかった。
ぽんと飛び出た『歯車』って単語に、一番ざわざわしたのは、
もしかしたら俺自身だったかもしれない。
もっと嫌な気持ちになった人がいたなら、申し訳が立たないな。
自分でここに所属すると決めておいて、社長の言い草に納得がいかない……なんて
考えている俺は、考えなしだったんだろうか。
別に無理を強いられたわけじゃない。
他に道がなかったわけでもない。
選択肢だってあったはずで。
たぶん俺の『決め手』は、今振り返ってみるなら、
……知っている人がいたら心強いから、だった気がする。
それは、大多数に流されたことになるのだろうか?
放り投げられる『頼まれごと』はまだ、堂々と胸を張って、簡単に受け止められるものばかりだ。
これから先もっと『ちゃんとした』何かがあったとしても、
俺たちにだって拒む権利くらいはあって、
抵抗があるものならこなさない、と決めたってかまわない……はず。
でもそれは、俺が決める、俺だけの話だ。
他の人たちが決めたことを覆す権利は俺にはない。
そこで選ばれた道が、どれだけ危険なものだったとしても。
最初に俺が受けた依頼の報酬は、ただの金銭だけじゃなかった。
武器があって、防具があって、痛みを誤魔化す薬があった。
その事実に、一瞬胃の底が重たくなったことを──
たぶん俺はこれから先も、忘れないんだと思う。
もしかしたら。そうだといいな、って思ってるだけなのかもしれないけど。
