RECORD

Eno.1348 紙谷兄弟の記録

本日の記録



ハカバタさんと会った。部室をちょっと見学させてもらうつもりが、部員さんに次々と話し掛けられた。
みんないい人で、慧門のことも優しく対応してくれた。怖かった
慧門はとても良い子だ。誰にでも笑顔で接するし、出会った人みんなをいいひとと認識する。世の中の大半の人はいいひとだ。だから最悪の事態なんてそう起こらないし、これからきちんと教えていけばいいだけの話だ。俺がちゃんとすれば回避できることだ。

ただ、実際に祟られたものを見てしまったから、最悪の事態が容易に想像出来てしまう。わるいひととちょっとでも思われたらアウトなのか、説明する猶予はあるのかもわからない状況で、大勢と会話する機会を作ってしまったのが怖かった。やっぱり昨日断るべきだったかって思った。約束したのが事件が起こる前だったのがつらい。
みんな優しくていい人で本当に良かった。

「絶対失敗してはいけないものはあまりない」と言われたが、その少しはある部分を抱えている。失敗すれば死人が出る。怪我なら最悪金で何とか出来ても、死んだものはいくら払ったって生き返りやしない。絶対に被害者を出してはならない。慧門のためにも。
本当に、極端に手段を選ばずに失敗しない方法を取るなら、慧門を閉じ込めておくことになる。一般人は確実に死なないだろう。でもそれじゃ本末転倒だ。俺は慧門を普通の幸せな子にしたいから。

俺を含め、祟りのことは誰も慧門に教えていない。いっそ教えてしまったほうが“絶対起こしちゃだめ”と思ってくれるかもしれないが、自分のことをわるいひとだと思ってしまったら。神による祟りなら何とか出来ても、慧門自身の力だった場合、俺には止めることが出来ない。
更に言うと、自分を害する人とそうでない人の区別がついていないのに総じてダメと言ってしまうと、慧門は自分の身を守れなくなる。

俺の伝え方一つで、良い方にも悪い方にも進んでしまう。正直俺もまともにそういうことを考えて来なかったから、どう言えばどう伝わるのかわからない。
祟ってはいけません。バチが当たるといった神託をしてはいけません。死んじゃうかもしれません。当たり前のことだ。これを伝えるだけ。普通の街だったらそうだ。ここは普通じゃない。
裏は仕方なくても表ではだめですと言って、怪異が表に出てきたり、悪意をもって近付く輩に襲われたりしたらどうする?特に前者は可能性が低くない。
怪異に対してはOKと言ったら、友好的な怪異が危ない。痛いことしてきた奴に対してはと言ったら、その一撃で死んだら終わりだ。
善悪の区別なんて大人でも難しいのに、幼児にどうやって伝えればいい?即死だってあり得るような力を持ってるのが大き過ぎる障壁で、立場的にも危険が多いから封じるのは得策ではないだろう。それこそ手段を選ばないなら……何があろうが俺と行動を共にするとかなら安全確保は出来るが、そんなこと出来るわけないじゃないか。

俺の願いは慧門の居場所を作って、表の同年代の子供達と一緒に育ってもらうことなんだ。普通に暮らすだけ、ただそれだけが望みなのに。
「他の人と問題を分け合って解決していこう」「誰かがミスをしても、他の人がフォローに回れる」
そう言われたけど、分け合ってくれる人がいない