RECORD

Eno.138 桃枝 舞十衣の記録

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 ”天使様”のことも”神話”のこともどんどん記憶から薄れていき、数年が経った。


 この間にも”天使様”に再び出会うことはなかったし、それと同類の不思議な出来事も、特に起きなかった。
 実に平穏。ミスティックやアノマリーとは無縁な日々だった。


 しかしある日を境に、そうはいかなくなった。


 中等部での学生生活も残りわずかとなったある日の休日、自室で大掃除をしていた。
 高等部への進学に向けて、不要になるものを処分するためだった。

 その中で、授業で使った教科書やノートに紛れて出てきた、六冊のノート。
 ”神話”や”天使様”について書き留めた”ひみつノート”だった。

 片付け中に、なんとなくこうしたものに注意が行ってしまうのは、人類が持つ一種の病のようなものなんだろう。ボクもそれを患っていた。


 ノートの中で描かれているのは、卓越した科学技術と幻想的な魔法技術の存在する国、人によって作られた永遠の生命たち、眠っている間にしか行けない幻想の街……そして、そこで活躍する英雄と、その物語。

 こうして眺めて見てみると、まるでそれは、誰かの考えた創作物語のような。
 けれど、没頭して読み上げると、現実のどこか遠くにある世界のような錯覚を覚える。


 __だからこそ、”それ”は起きたのだろう。


 気付いた時には、部屋は片付けを始める前よりもひどく散らかっていて。何より、言語化し難いけれど、とても現実とは思えないような不可思議な空気が立ち込めていた。
 その空気が感知できてしまっている時点で、ボクはもう、非現実的な世界と無縁とは言えない人間になってしまったのだろう。



 余談。
 あの後、家にいた両親と、下の兄が、すごい勢いでボクの部屋に駆け付けた。ボクは意識が飛んでいたからわからなかったけど、きっと大きな音などがしたんだろう。
 起こった出来事をそのまま話すわけにもいかず、適当に「積んであった本が雪崩を起こした」とはぐらかしておいた。