RECORD
Eno.7 瀬波 りり子の記録
いわゆる"戦い"が始まった。
当機はそれに加わり、いくつかの怪奇を殴った。
当機の武器は、この拳。フロストギガナックル。氷と、握った手。
より重要なのは拳のほうであり、氷はそれに上乗せされる力。
ヒトの持つ原初の武器、力の象徴である拳。
それが当機の振るうもの。
それは何かを倒すために振るわれて、
それは何かを壊すために振るわれて、
それは何かを殺すために振るわれる。
それ自体に間違いはないし、恐れもない。
けれど、
それで何かを倒すために振るって、
それで何かを壊すために振るって、
それで何かを殺すために振るう。
そうするのは、当機だ。
そして。
それで何かを倒したくて、
それで何かを壊したくて、
それで何かを殺したい。
そう思うのも、当機自身だ。
それ自体に間違いがあるのか、恐れるべきなのか……
そういったことを、市庁舎の一部屋で、話を聞きつつ考えることは多い。
でも、一つだけわかっていることはある。
それで何かを倒したくても、壊したくても、殺したくてもいい。
そうだったとして。
それで何かを倒す必要も、壊す必要も、殺す必要もない。
私は、ただの高校生なのだから。
さて。
そう割り切ったとして。
出くわす"敵"たる怪奇の拳が、
ヒトを倒したかったとして、そうではなかったとして。
ヒトを壊したかったとして、そうではなかったとして。
ヒトを殺したかったとして、そうではなかったとして。
たとえ、どれだったとして。
それが当たったヒトは、倒され、壊れ、殺されうるのだということ。
今この瞬間にも、誰かが傷ついていて……
明日から、学校に来れなくなるかもしれないということ。
それを"私"は許せないということ。
それもまた、確かにわかっている。
理不尽に対する怒りというよりは……
私の見ていないところで死ぬな、ということ?
見ているところならいいのか? 看取りたいだけか?
目の前で車に撥ねられるのならいいのか?
目の前で怪奇に潰されるならいいのか?
わからない。
多分、わからなくていい。
許せないということはわかっているままだ。
許せないものをどうしてきたか。
大丈夫。そういうとき、私はずっと――
どうしてたっけ?
どうもしてこなかったかもしれない。
ヒトに触れたら壊すというとき、己の力を受け入れられなかったとき、
私は雪山に逃げ込み、引きこもった。
ひとりの少年を怖がらせた時、あの子の憧れで居続けられなかったとき、
私はただ逃げ、その成長を見守るだけとなった。
私が許せないものは、いつも私のほうだったのかもしれない。
じゃあ、今回許せないものも――
"これ"について考え終わっていないことに気がついたのは、
翌朝、学生としての"私"を起こすアラームが鳴ったときだった。
悪夢から目が覚めた私は、昨日考えていたことを思い出す。
機械だから、それくらいはできる。
「……だとしても」
「そんなこと考えてる時間あるなら、地理の勉強すればいいのに」
ここ数日ずっと己を悩ませていた、悪夢。
正確には、悪夢を見ることに対する恐怖。
恐れすぎて眠れなくなるくらいだったのに、
昨日の私は他のことを考えすぎてその恐怖を忘れていたらしい。
恐怖より先に考える必要があることって? って思っても。
ログを漁ってわかるのは、よくわかんない悩みについてだけ!
一晩経って、考え直してみれば……
それより、もっと大事なことがあったのに。
青春真っ只中の高校二年生瀬波りり子にとって今いちばん怖いのは、
進路指導と、梅雨と、日焼けと……テストの赤点に決まっているのだから!
拳 / 夢よりこわいもの
いわゆる"戦い"が始まった。
当機はそれに加わり、いくつかの怪奇を殴った。
当機の武器は、この拳。フロストギガナックル。氷と、握った手。
より重要なのは拳のほうであり、氷はそれに上乗せされる力。
ヒトの持つ原初の武器、力の象徴である拳。
それが当機の振るうもの。
それは何かを倒すために振るわれて、
それは何かを壊すために振るわれて、
それは何かを殺すために振るわれる。
それ自体に間違いはないし、恐れもない。
けれど、
それで何かを倒すために振るって、
それで何かを壊すために振るって、
それで何かを殺すために振るう。
そうするのは、当機だ。
そして。
それで何かを倒したくて、
それで何かを壊したくて、
それで何かを殺したい。
そう思うのも、当機自身だ。
それ自体に間違いがあるのか、恐れるべきなのか……
そういったことを、市庁舎の一部屋で、話を聞きつつ考えることは多い。
でも、一つだけわかっていることはある。
それで何かを倒したくても、壊したくても、殺したくてもいい。
そうだったとして。
それで何かを倒す必要も、壊す必要も、殺す必要もない。
私は、ただの高校生なのだから。
さて。
そう割り切ったとして。
出くわす"敵"たる怪奇の拳が、
ヒトを倒したかったとして、そうではなかったとして。
ヒトを壊したかったとして、そうではなかったとして。
ヒトを殺したかったとして、そうではなかったとして。
たとえ、どれだったとして。
それが当たったヒトは、倒され、壊れ、殺されうるのだということ。
今この瞬間にも、誰かが傷ついていて……
明日から、学校に来れなくなるかもしれないということ。
それを"私"は許せないということ。
それもまた、確かにわかっている。
理不尽に対する怒りというよりは……
私の見ていないところで死ぬな、ということ?
見ているところならいいのか? 看取りたいだけか?
目の前で車に撥ねられるのならいいのか?
目の前で怪奇に潰されるならいいのか?
わからない。
多分、わからなくていい。
許せないということはわかっているままだ。
許せないものをどうしてきたか。
大丈夫。そういうとき、私はずっと――
どうしてたっけ?
どうもしてこなかったかもしれない。
ヒトに触れたら壊すというとき、己の力を受け入れられなかったとき、
私は雪山に逃げ込み、引きこもった。
ひとりの少年を怖がらせた時、あの子の憧れで居続けられなかったとき、
私はただ逃げ、その成長を見守るだけとなった。
私が許せないものは、いつも私のほうだったのかもしれない。
じゃあ、今回許せないものも――
"これ"について考え終わっていないことに気がついたのは、
翌朝、学生としての"私"を起こすアラームが鳴ったときだった。
悪夢から目が覚めた私は、昨日考えていたことを思い出す。
機械だから、それくらいはできる。
「……だとしても」
「そんなこと考えてる時間あるなら、地理の勉強すればいいのに」
ここ数日ずっと己を悩ませていた、悪夢。
正確には、悪夢を見ることに対する恐怖。
恐れすぎて眠れなくなるくらいだったのに、
昨日の私は他のことを考えすぎてその恐怖を忘れていたらしい。
恐怖より先に考える必要があることって? って思っても。
ログを漁ってわかるのは、よくわかんない悩みについてだけ!
一晩経って、考え直してみれば……
それより、もっと大事なことがあったのに。
青春真っ只中の高校二年生瀬波りり子にとって今いちばん怖いのは、
進路指導と、梅雨と、日焼けと……テストの赤点に決まっているのだから!