RECORD

Eno.160 琉華院 いのりの記録

もっと深くへ

「ひーくん、あたしね。もっともっと深く潜ることにしたの。」

「今までは、浅瀬に足をつけてチャプチャプと楽しむだけだったの。
けれど、綺麗な水辺だと思っていた場所は、思ったより底が深くて。」

「……えっ、ひーくん?ひーくんはダメだよぉ!危ないからここでお留守番。」

「潜ったことがない水の底は思ったより暗くて、ちょっと怖いけど。
…………でも、帰り道がわからなくなった時はあたしのこと、呼んでくれる…… よね?」



マザーの導きで、あたしは裏世界へ行くことになった。
どこにするか悩んだけど、神秘管理局の特別民間協力者として所属することになった。
……本当はどこでもよかった。でも、皆のお役に立てそうだったから、なんとなく。

学科は応急医療処置実習を受講することにした。
元々誰かを癒やす神秘って訳じゃないから、本当に神秘に触れたばっかりの一般人でも出来そうな応急医療術。
何もできないあたしでも、少しでも力になって、皆の傷を癒やしてあげられたらな、って思った。
……それに、自分で回復できるなら、あたしが傷ついても全然大丈夫って言えるもんね。









「琉華院 いのり。」

「琉華院の名に恥じない、立派な人となるのです。」

「だって、貴女様は、───…………」

「……………………。」



わかってる。最初っからわかってるよ。
最初からあたしに拒否権なんてない。あたしの運命は最初から決まっている。

何にもできない、落ちこぼれでダメダメなあたし。
けれど、誰にも言えない秘密がある。水をちょっと操れる。何も無いところから水を湧き出すことができる。
……本当にそれだけ。


それだけでも、自分だけがちょっとだけ皆には内緒の不思議な力を使えるってこと。
心の中でどこか、特別感とか、そういうのがあったのかもしれない。




けれど、あたしって井戸の中の蛙だったみたい。
あたし以外にも不思議な力を持ってる人はいっぱいいた。
水を出すよりもっとすごい神秘を扱ったり、存在そのものが怪奇だったり。
裏世界のことを前々から知ってる人もいたり。
裏世界で見かけたり、行く先で共闘する人達は、皆個性的で、皆きらきらと光り輝いていた。


「……眩しいなぁ。」



深い深い水の底は暗くて底が見えなくて、まだちょっと怖いけど。
いつか、この水の冷たさにも慣れる日が来るのかな。

あたしも、もっと頑張らないとなあ。
もっともっと、皆の力になりたいなあ。
がんばりたいなあ。がんばりたいよ。でも、どうすればいいのかな。

…………ねぇ、ひーくん。地上で息が出来ないのは、おさかなさんだけじゃないんだよ。