RECORD

Eno.966 棚町ミヲの記録

4. 折り鶴を見せてくる子供みたいな顔

これまでの記録も、よろしく!
1. そう、マグカップの持ち手とか - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=602
2. 優しい言い回し + 直接言っちゃう優しさ - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=1192
3. はじめてのおつかい - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=2335


……
……………

「以上です。私が裏世界でこなした依頼の報告は。」

「よくやっているな。怪我もせず大したものだ。」

「はぁ。」

「どうだ、楽しかったか?」

「ぇ」


フリーズ。
次の言葉が出てこない。

今私は何を聞かれている?
この質問にはどういう意図がある?

この質問の回答を、私は間違えうる?

「おい、深読みするな。
 お前に試したいことがあるならもう少し上手くやる。
 その全部顔に出るタチもどうにかしろ。」

「後ろめたく思う必要はなにもない。
 ここしばらくずっと"隠せ"と言われた力を存分に振るい、優秀な結果を残したんだ。
 そりゃあ開放感もあろうよ。」


「……そうでなくとも、私の前で力を見せるお前の顔は、
 缶だのペンだのを壊して見せるお前の顔は、楽しそうだったよ……。」



「……」



「今のお前とは大違いだ。
 楽しそうな顔はできるか?
 私もかなり苦手だが、こうやるんだ。見ろ。」



ナレッジの表情筋は微動だにしない。
棚町ミヲは、自分の眉を指で伸ばして、いつもの表情に戻した。


「私の"神秘"については、なにかわかりそうですか。」

「あん?あぁ、調査すると教えてやったんだったか……なんにも。
 似たような事例や、鍵になりそうな情報はない。
 お前だけのものだな。それは。」


「こういう能力を、抑制したり、無くす事ってできないんですか?」

「お前に今、局の訓練室でやらせているのがそれだ。
 続けることで、神秘を制御することができるようになる。」

「あー、あっと、その、違うんです。
 私がコントロールするんじゃなくて、私から無くしてしまいたい。」

「どうして。それはお前に元からあるものなのに?」

「……これが私に元からあるものだったとして、
 "普通ではない力"と知ったのに、今までのままではいられないでしょう?」


「本当に、そればかりか。」





深呼吸。

楽しいんですよ!嬉しいんです。期待すらある。
 あなたが言う通り、私は今、壊すことがすごく楽しい!


「壊してみたい!まっすぐ走る線に爪を入れて剥がしてみたい!
 何度も曲げて弱くなった部分を勢いに任せて折ってみたいし、次はふたつに束ねて同じ事をしてみたい!
 頭の中にあった断面と目の前の結果に違いがないことを確認したい!それから……」



すべてを隠すように俯く。

「……でも、今までの私はそれをずっと我慢してきた……。
 それが、おかしい、異常なことだと、薄々気づいていたからです。」

「私が自由に、……本当になにもかも自由にできるようになったとき、
 裏世界と神秘的な力学がそれを許容するとしても、
 私が存在する世界がそれを許容するかがわからない。」

「私にはまだ見えないけど、きっと私の世界に、ある一つの線があって……
 そこを、そうすることで、壊れるとわかる。
 わからないのは私が今、どこを触っているかだけなんです。」


「だから………………………、つまり。」



コツ、コツ、コツ。ナレッジは爪でテーブルを叩く。
それはわざとらしく、上司として眼の前の部下のために
悩んでやるべき秒数を数えているように見えた。




「望むなら、記憶の喪失処理をしてやってもいい。」

「きおっ……!?」

「そんなことができるのか、なんて聞くなよ。
 お前だって新米の仮所属とはいえ監視課なんだから。
 監視課の領域に、見つけたあと・・の仕事がないわけ無いだろう。」

「お前の神秘に関する記憶、まるごと消してやる。
 神秘がなくなるわけではないから、監視を受けて暮らすことにはなる。
 それ以外は、お前が"ここ"に来る前と全部いっしょになるよう取り計らう。」

「私はやりたくないね……必要だと思わない。
 だが、最初に言ったようにお前にとって一番いい選択を与えてやりたい。
 耐えられなくなったのなら、言え。」



「……。」



「申請だけ出しておいてやる。
 記憶処理の申請は重いから承認まで時間がかかるんだが、
 やめる分には『気が変わった』で強引に踏み倒せる。他人の仕事が増えるだけだ。」

「……もしお前が私と同じ立場になる日が来たなら真似はするな……叱られるから。」



ナレッジは引き出しから、何かの用紙を1枚だけ出した。
「他に言いたいことはないか」。言いながらボールペンがどのポケットにあるか探す。

棚町ミヲは特に何も言わず、会話の成り行きに任せた。
自分が今なにか選べるとは、まるで思えなかった。

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今回の要約:
・棚町ミヲは、自由に物を壊すのがぶっちゃけ楽しい!
・棚町ミヲは、力を持つことに不安を感じてるかも?
・ナレッジさんは、組織人としては最悪の人材。
・神秘管理局の監視課には、人の記憶をうまいことする技術があるらしい。