RECORD

Eno.144 開道 泉賀の記録

昔の話

あの頃ぼくは、いつまでも走り続けることが出来た。

白い猫が震えていた。
なにか危ないものが来ていた。
咄嗟に庇って、そして。

ぼくは半年、目を覚まさなかったみたいだ。

医者はいろんな事を言っていた。
猫だと思っていたものはビニール袋だったとか。
相手がいい人で、見舞金をとても多く貰うことになるとか。
もう長距離選手としてはやっていけないとか。

つまりぼくは些細なミスで全てを失ったってこと。

その後はもう散々。
同室だった人に変な宗教に勧誘されたり。
退院してからもそのお仲間に付き纏われて、
逃げるように引っ越すことになったり。

地元でも陸上無くしたぼくなんて、って声があるみたいで、
居場所はすっかりなくなってしまっていた。

走り続けていたぼくはもういない。
今ここにいるのは主人公になれなかった、
何者にも成れない空っぽの男。

だからぼくは、自分自身に何も興味が持てない。