RECORD
Eno.225 葛山の記録

「お仕事は順調ですか?」
カレントコーポレーション裏北摩営業所、再び。
名刺の電話番号に電話をかけた翌日、僕はそこを訪れたのだった。
「順調も何も、あんな危険な化け物と戦わされるなんて聞いてませんよ。
こんな一般高校生に何をさせるんです」
不満げに訴える。
危険な化け物――そう、飛んでくるハンドスピナーや野良掃除機、チンピラ等である。
しょぼい等と言ってくれるな。僕的には恐怖でしかないんだって。
チンピラに至っては怪奇ですらなく人間だが。地味に一番嫌だったかもしれない。
治安の悪い場所でチンピラや酔っ払いと喧嘩するバイトをしてます……なんて、とてもじゃないが親に言えない。
「おや、ご不満でしたか。
こういったクエストで喜ばれる男子学生の方は多いのですが」
「人選ミスですよ。
男子学生が全員、非日常的なバトルシーンに憧れてる訳じゃないですからね」
それはそれとして、と話を切り上げる。
本題は、自分の神秘について何か心当たりがないか、という話だ。
「怪奇を破壊すると、宝石みたいな欠片が拾えるじゃないですか」
「フラグメントですね」
「それをこう、ぎゅって握ると」
実際に、手のひらにあるフラグメントを握ってみせた。
「こんな物が」
手の中のフラグメントが、紙切れに変わる。
否、紙と言うのも正しいのか分からない。白くて薄いから紙と呼んだ。
そもそも紙ってのは草木で出来たパルプから出来るもので、原材料がフラグメントじゃ紙とは言えないんじゃないか?
それはどうでもいいけれど。
紙と呼ぶには変な感触があると思う。言葉で上手く表せない、奇妙な質感。
「成程」
「先日気付いたんですよ。
これって神秘ですか? それとも皆出来るやつですか?」
「皆は出来ませんね……。恐らく、神秘の可能性が高いです。
こちら、調査の為にお預かりしても良いですか?」
紙を渡す様に促されたので、素直に手渡した。
水崎さんは紙を真面目腐った顔で眺め回し、何某かをノートパソコンに入力した。
「はい。返さなくて良いです、何か気色悪いんで」
それと、と言葉を継いだ。
気付いた事はそれだけではなかった。
「真っ暗な場所が何となく苦手なんですよね。夜も電気点けて寝るくらいで」
ただ、これは最近の話ではない。
「これに関してはずっと前からの話なんですが。
その理由ってのが、暗いと何かの視線……気配? の様なものを感じる為で。
それも、1人の時だけなんですよ。誰かが居ると感じない。
もしかして、何か関係あるかなって」
それだけの話なんだけど。
「どうしてもっと早く言わなかったんですか」
咎める様な視線を貰った。
「いや、完全に無意識だったというか、先日思い当たったというか。
それに、ぶっちゃけ自分の強迫的な妄想か何かだと思ってて……」
言い訳がましくなっている僕を他所に、水崎さんはキーボードを叩く。
「どのくらいの暗さでそうなりますか?」
「ほぼ見えないくらい。夜でも、街中みたいな光が灯っていて明るい場所ならセーフです」
「暗闇に何が居るか、いつからそうなったか等、分かりますか?」
「……えっと、小学校卒業前辺りから。何かは……分かりません」
口が重くなる。この辺の時期の話、言い辛いんだよな。
じ、と水崎さんの視線がこちらを貫く。目を逸らした。
「何か、隠していませんか?」
「…………」
答えに窮する。
そりゃ追求してくるよ。
「いや、本当に正体は分からない……んですけど。
ただ、切っ掛け、というか……焼野の……えっと、ちょっと待ってください」
完全に言葉が絡まって上手く話せなくなっている。
口先だけには自信のあるこの僕がだ。思いの外、自分は動揺しているらしい。
しどろもどろになっている僕を見て、水崎さんは少し語気を和らげた。
「……いえ、今直ぐ無理に話せとは言いませんので」
「ちょっと今度話纏めて来るので、それからじゃ駄目ですか。すみません」
「ええ、構いません。話したくない過去もあるでしょうし」
「話したくない訳では……そうですね……ご迷惑お掛けします」
水崎さんは冷たいお茶を出してくれた。
この人優しいな、と思った。
謎の紙切れと電気の無駄遣い

「お仕事は順調ですか?」
カレントコーポレーション裏北摩営業所、再び。
名刺の電話番号に電話をかけた翌日、僕はそこを訪れたのだった。
「順調も何も、あんな危険な化け物と戦わされるなんて聞いてませんよ。
こんな一般高校生に何をさせるんです」
不満げに訴える。
危険な化け物――そう、飛んでくるハンドスピナーや野良掃除機、チンピラ等である。
しょぼい等と言ってくれるな。僕的には恐怖でしかないんだって。
チンピラに至っては怪奇ですらなく人間だが。地味に一番嫌だったかもしれない。
治安の悪い場所でチンピラや酔っ払いと喧嘩するバイトをしてます……なんて、とてもじゃないが親に言えない。
「おや、ご不満でしたか。
こういったクエストで喜ばれる男子学生の方は多いのですが」
「人選ミスですよ。
男子学生が全員、非日常的なバトルシーンに憧れてる訳じゃないですからね」
それはそれとして、と話を切り上げる。
本題は、自分の神秘について何か心当たりがないか、という話だ。
「怪奇を破壊すると、宝石みたいな欠片が拾えるじゃないですか」
「フラグメントですね」
「それをこう、ぎゅって握ると」
実際に、手のひらにあるフラグメントを握ってみせた。
「こんな物が」
手の中のフラグメントが、紙切れに変わる。
否、紙と言うのも正しいのか分からない。白くて薄いから紙と呼んだ。
そもそも紙ってのは草木で出来たパルプから出来るもので、原材料がフラグメントじゃ紙とは言えないんじゃないか?
それはどうでもいいけれど。
紙と呼ぶには変な感触があると思う。言葉で上手く表せない、奇妙な質感。
「成程」
「先日気付いたんですよ。
これって神秘ですか? それとも皆出来るやつですか?」
「皆は出来ませんね……。恐らく、神秘の可能性が高いです。
こちら、調査の為にお預かりしても良いですか?」
紙を渡す様に促されたので、素直に手渡した。
水崎さんは紙を真面目腐った顔で眺め回し、何某かをノートパソコンに入力した。
「はい。返さなくて良いです、何か気色悪いんで」
それと、と言葉を継いだ。
気付いた事はそれだけではなかった。
「真っ暗な場所が何となく苦手なんですよね。夜も電気点けて寝るくらいで」
ただ、これは最近の話ではない。
「これに関してはずっと前からの話なんですが。
その理由ってのが、暗いと何かの視線……気配? の様なものを感じる為で。
それも、1人の時だけなんですよ。誰かが居ると感じない。
もしかして、何か関係あるかなって」
それだけの話なんだけど。
「どうしてもっと早く言わなかったんですか」
咎める様な視線を貰った。
「いや、完全に無意識だったというか、先日思い当たったというか。
それに、ぶっちゃけ自分の強迫的な妄想か何かだと思ってて……」
言い訳がましくなっている僕を他所に、水崎さんはキーボードを叩く。
「どのくらいの暗さでそうなりますか?」
「ほぼ見えないくらい。夜でも、街中みたいな光が灯っていて明るい場所ならセーフです」
「暗闇に何が居るか、いつからそうなったか等、分かりますか?」
「……えっと、小学校卒業前辺りから。何かは……分かりません」
口が重くなる。この辺の時期の話、言い辛いんだよな。
じ、と水崎さんの視線がこちらを貫く。目を逸らした。
「何か、隠していませんか?」
「…………」
答えに窮する。
そりゃ追求してくるよ。
「いや、本当に正体は分からない……んですけど。
ただ、切っ掛け、というか……焼野の……えっと、ちょっと待ってください」
完全に言葉が絡まって上手く話せなくなっている。
口先だけには自信のあるこの僕がだ。思いの外、自分は動揺しているらしい。
しどろもどろになっている僕を見て、水崎さんは少し語気を和らげた。
「……いえ、今直ぐ無理に話せとは言いませんので」
「ちょっと今度話纏めて来るので、それからじゃ駄目ですか。すみません」
「ええ、構いません。話したくない過去もあるでしょうし」
「話したくない訳では……そうですね……ご迷惑お掛けします」
水崎さんは冷たいお茶を出してくれた。
この人優しいな、と思った。