RECORD

Eno.376 戸羽廻の記録

嘘つき鏡はこの世全ての光を愛さず、出鱈目な真実を語る




神秘体験に該当する事象を人生から洗い出すと、意外にも多くの神秘体験があるように思う。

小学生の時分に路地裏で見た謎の店。
――これは後に閉店している店で、自分が迷子になっていただけだと判明した。
いつかは忘れたが山で見た奇妙な植物。
――これは後にキノコの一種だと植物図鑑が教えてくれた。
駄菓子屋で5連続で当たりを引いた。
――これは後になんでもない確率の気まぐれだと整理した。
高校生の頃に部活で拾った変な鏡。
――これについては詳しく触れる。
未確認飛行物体二回。
――これは幻覚や錯覚の可能性が高い、判別は出来ない。

カレントコーポレーションでの説明を受けた後、自衛手段を用意してもらう前に自ら用意すべきではないかと考えた。
人から貰った物を使うのは好きではない、タダなら選んでやってもいいのだが、それを理由に恩を売られる可能性を加味すると高く思える。
自分の独立性が侵害された気にもなる。それは面白くない。

そこで(100円で)買い戻したのが件の鏡だ。
人の手は借りたが目的の通りに買い戻せたのは行幸と言えるだろう。

この鏡は日頃は何も映さない。
ただの黒曜色~金属色の金属板に見える。
けれど不意に何かが映る時、必ず正しい像を結ばない。

正しくないという一点のみが共通しており、法則は見受けられない。
鏡映対象が起きない、物が欠ける、特定の誰かが映らない、別の物が映る。
裏で何度か試したが、この鏡は〇と×で測れない。鏡と呼ぶのがふさわしいかも怪しい。

仮に嘘つき鏡と呼ぶ。
この呼び方は安っぽくて気に入っている。

鏡の映す"嘘"を私が像として見止め、そちらの方が正しいと考えた時、この嘘つきは対象を"その通り"にして嘘を誤魔化そうと働きかける。
映らない状態を認めれば、存在を消そうとするし。
別物が映った状態を認めれば、別物に変えようとする。

……実行可能な範囲については考えないこととする。

「ある意味では邪視か」


気まぐれに自分の姿を映す。
左右で色の違う瞳が"そのまま"真っ直ぐに映る。
そんな嘘を認めてやってなるものか。

鏡に映る姿が消える。
そら次の嘘だ、お前はそこに居ないと言わんばかりに。
廉い芸人だこと、とばかりに嗤ってやった。

鏡は拗ねたように何も映さない金属板に戻る。

「神が六日苦心して最後に最高と言ったからには、多少は気の利いたものがあると思うがね」


この鏡はこの世界の光を愛さないらしいと笑った。