RECORD

Eno.340 月待 よすがの記録

無題


志瀬津拳悟は僕にとって唯一切りきれなかった縁・・・・・・・・・だった。
本当に忌々しいと思っていた。過去との違いを比較されることの何と煩わしいことかと。
"変わった"とか、"昔と違う"とか、自分がちゃんと人みたいだった頃を思い出すのが嫌だった。
変わらない名前と、同一の妹の名前。それで白を切るのは無理だと思ったから、死ぬ気で月待よすがを演じた・・・

自分が変わっていないところを思い出して、昔の話を合わせる。
一応他の友達の名前だってすぐに出てくるように何度もメモに残した。
そんな面倒くさいことを彼一人のためだけにしたのは、……まあ、"神隠し"への興味だけじゃあないと思う。

それでも彼は結局、見破ってきた。
曰く、聞きすぎだと。隙を見せすぎだと、言われたことがある。
ここで弁明しておくなら自然だと言ってくれる人もいたがそれは置いといて。
少なくとも、彼に関してはそんなことを気にしてこないとタカを括っていたわけだ。

「よすがは…昔からちょっと俺を侮ってるところあるからな。」


……正解だと思う。
彼は昔から少し泣き虫で、僕の後ろをついてくるような子だった。
逆に僕は自然や珍しいものが好き。手をひっぱって、色んなところに連れまわした。
ケンくんならついて来てくれる。一緒に遊んでくれる。冗談を分かってくれる。
初めて好きになった人だったんだと思う。まあ、今はもう顔も忘れてしまった上に神秘に夢中なんだけど。

だけれど、再会が怖かったのはどうやら僕だけじゃなかったらしい。
昔のこと、歩いてきた時間、体験した感覚。それをただ、なんとか取り繕って生きてきただけ。
なんとなく"こうだった気がする"が歩いて、楽しいとか悲しいとかそんなことより『上手く出来てるか』が不安になる。

「以前の俺を知る人間にまた・・俺は志瀬津拳悟じゃないって思われたんじゃないかって。
 だから、他の人間を選んだんじゃないかって。」


……それは分かるよ。君の顔が分からない僕でも、一番分かる。
変わってしまったと思われることが辛い。
自分が変わっていないと思っていることが異常。
自分を捨てて他者で代替されることが虚しい。
――それは嫉妬なんかよりもっと悍ましい何かなんだよね。分かるとも。

欠けてしまったものを埋めるなにか。それが取り戻せるならそうすべきだ。
これは打算でも興味でもなく、僕自身がそう思う。

生きることの原動力を何かで補填するならマトモじゃいられない。
だから君が取り戻せるなら、僕はそれを最後まで見届けてみたいと思ったんだ。
……そうしたら、僕も少しは君の言うように"欲張れる"気がしたから。