RECORD
天体観測_12
“彼らの解体と、サンプルを持ち帰ってきて貰えるかな。
……くれぐれも気を付けたまえよ。”
“その手合いのサンプルを回収してほしいんだ。
今までの頼み事と違って、今回は少し危険を伴うだろう。気を付けてね。”
僕に───僕たちに、依頼が渡された。
協力者の手がどれだけ借りられるかわからないのだろう、
少なくとも自分の知る範囲の人たちはみんな、
それぞれ学連や機関からの依頼が来ているようだった。
当然、担当者の転会さんもそれを知っている。

「各学連、機関からそちらのスマートデバイスに依頼が通達されていることと存じます」
「その中には怪奇との接触───応戦が想定されるものもあります」

「よって、依頼に取り掛かっていただく前に、
こちらから武器の配布、支給を行います」

「灰原様に支給する“武器”は、こちらになります」


「僕もしかしてデータキャラだと思われていますか?」

「PCはそちらで持参いただく形になります」

「そこ経費削減するんだ」

「冗談ですよ」
……聞くところによると。
USBメモリの中に、心象エネルギー哲学、
『異術』で学ぶような基礎エネルギーのデータが入っているらしい。
それを科学と呼ぶんじゃないか?
とも思ったけれど。
複製はできても、データの中身は未だに解析ができない、らしい。
裏世界産のものなのだと。
神秘の説明を受けた時も思ったけど、理屈不明の力に頼らざるを得ない、
というのはどこか不安を帯びてしまう。
そう言えば、転会さんからもある程度、同意を得られた。







「……ですから」
「これはあなたに配布する、簡易的な戦闘手段と呼ぶべきでしょう」

「この“武器”の強みは、我々の機関から提示する武器種であれば、
なんであれある程度扱えるようになるところ。
つまり、素人でもマシになるということです」

「もちろん、要望があれば媒体の改造も受け付けましょう。
私のとか石板ですからね」
……だとか。
意図もあったのだろう、彼女がどういった手段で戦うのか、
そうした手の内を見せてもらえることはなかった。

「…………」

「あの、」
結論から言って、武器は受け取った。
というより、それを拒否する理由はない。
勉強会でも話題に上がったけれど、自衛っていうのは必要不可欠だ。
だから、これは、専門家に対するただの意見で、疑問だった。
あの場で話すには憚られることだったから。

「僕、戦いたくないんです。依頼をやりたくない、とかじゃなくて……
裏世界で、争いが起きて、それに巻き込まれるのが嫌だ。」

「友達が外で戦ってるって知った時、本当に、怖くなって。
みんなが痛い目に遭ったり苦しんだり、そうでなくても、物騒な方に頭を働かせてしまったり……」

「……これから本格的に取り掛かるってなった時に。
誰もそれに、疑問を覚えなくなって、戦うことを当然のように───」
いや、違うな。

「仕方ないことだから、って受け入れるのが」
「僕には、認められそうに、ない」

「……」

「無理です」

「あなたのご学友はあなたではない。
ですから、あなたがどう感じ、どう心を配り、どう不満に思おうと、
我々はこれからも彼らを頼り、彼らには協力していただくことになるでしょう」

「……と」

「もっともらしい説教を述べ続けることはできるのですが」
───彼女は続けた。
「私は、ひとつ可能性を提示しましょう」
「あなたには辛抱を強いるような案になってしまいますが」
「裏世界の、各学区のラウンジや講義棟。
それから市庁、機関の拠点」
「この裏世界にも、“安全地帯”と呼べる場所が存在します」
「当然、我々は何となくなんて理由でその土地を選んだわけでも、
日々侵略に怯えながら平気な顔だけしているわけでも、
もちろん偶然ラッキーで怪奇の目に留まらず生き延びているわけでもありません」
「そもそも土地で選ぶのは、順序も踏まえて現実的に不可能ですからね」
「我々には、裏世界を安全化するための知恵と技術がある。」
「もちろん、裏世界は未だ解明できていない点も多く、
我々の住む世界と同じように整備できるか、そもそも計画の見通しが正しいのか、
全ては暗雲の中でありますが」
「長期的に見て、裏世界が誰にとっても安全で、
且つ共存可能な区域になるよう調査を進める───そういった意図も、我々は持ちます」
『表裏一体計画』。
仮称として告げられたそれは、漠然と、土地開拓や地域保全じみた意識を帯びている。
神秘・怪奇の調査、鎮圧や駆除、解析。
それを踏まえて、裏世界を表世界と同じ状態───人間が安心して住める、
区別の上で一体の様相になるよう鑑みられた計画。
各機関の助力が必要で、計画に当たる業務内容も、治安維持から神秘解析、整備まで多岐に渡る。
何より、『計画』と呼ぶには途方もない年月をかけるだろう。
それでも、彼らは積み重ねている。未来のための石を。

「灰原様は。ご自身の力を、ただ争うためでなく、ご学友や日常を守り、救うために……
長い目で見て半永久的な、神秘にも耐えうる『日常』を築くために使う。」

「そうした取り組み方を望んでみるのも、良いのではないでしょうか」

「…………確かに、」
「守りたい。助けになりたい、と思います」
長考の末、絞り出た声を聴いて。
彼女は得心したように頷いて、笑った。

「……学生生活も、あなた自身も。
長く猶予時間を持ち、その中で考え続けることができます」

「私が告げたのはほんの一案で、ある種、
会社の勧誘の一環でもございますが……」

「…………」

「転会さん、笑うんだ…………」

「怪奇だと思われています?」

「すみません」

半永久って、妥協だ。
妥協は、不自由だ。