RECORD

Eno.192 鴉凪 楓の記録

『烏天録』

天狗ノ中ニアリテ 殊ニ烏羽ヲ纏フ者ヲ烏天狗ト称ス
其ノ貌 嘴ヲ以テ異ト為シ 雙翼ヲ振リ天ヲ馳ス
神通ヲ以テ風雷ヲ制シ 世ノ道理ヲ測ル器ナリ
然レドモ 彼等自ラ威ヲ誇ラズ 義ニ篤キ者ヲ守護シ 道ヲ踏ミ外レシ者ニハ影一片ヲ見セズ
是ヲ「鴉神ノ式目」ト称ス

――『烏天録/鴉凪之巻』より抜粋


此れはかつて山間の隠棲地にて記されたとされる、鴉凪家に伝わる文献である。
鴉凪家では烏天狗の在り方を示す規範である“鴉神ノ式目”――
これを一種の家訓のように受け継いできた。

時を経て人との縁を重ねた鴉凪の血筋は、今や外見も能力も凡庸なる人間と何ら変わらない在り様ありように至る。
しかし血が薄まった現在も、彼らが「正しき者に手を貸す者であれ」と教えられてきたことは変わらない。

即ち、鴉凪の名を戴く者は、己を飾ることなく、正義と節度を持って振る舞うべし。
──そうあるべきとされてきたのである。


「――鴉凪の名においてかくあるべき、か」



「……この姓の元に生まれたことを誇りに思おう」



「―――だが」



「俺は"俺"としてここにいる」



「……ただ、それだけのことだ」