RECORD

Eno.966 棚町ミヲの記録

5. 魔法使いたちの口論

これまでの記録の続きだよ!
1. そう、マグカップの持ち手とか - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=602
2. 優しい言い回し + 直接言っちゃう優しさ - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=1192
3. はじめてのおつかい - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=2335
4. 折り鶴を見せてくる子供みたいな顔 - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=2461


……
……………

「……以上です……」



うつむいたまま、机の表面をカリカリとひっかいている。
以前、自分の衝動について打ち明けた時から数回の面談を経て、
少しづつ、少しづつ棚町ミヲは憔悴している。

何も進まないからだ。

自分が抱えるものが神秘と呼ばれる異常だとわかった。
そしてその異常なものを扱う組織に保護されて、言うことを聞いてきた。
そして、自分がそれをどう思っているかも伝えた。

それで、物事は何も進まない。
何度も何度も医者にかかって、治るどころかプラシボすら出てこない。


「お前、外ではそんな顔するなよ。」


「……あぁ、違う。弁明を止めろ。疑ってるんじゃない。
 お前が外では気丈に振る舞っている事は、実際に見て知っている。
 ……元気すぎて不気味なぐらいだ。いい友人を持ったんだろうな。」

「あの。ほんとにないんですか。
 私の神秘をどうにかする方法。」

「記憶の喪失処理の申請はまだ当分降りない。
 銀の弾丸はない。」

「……神秘管理局が、子供の神秘おもちゃひとつ没収出来ないっていうんですか?
 そんなはずが……私にはそうは思えない!何か、隠してたり、それから、私に言えないこととか……」


仮説、想像、妄想。こんな方法があるはずじゃないか。
そうじゃなかったらこんな矛盾がある。だとしたらこうでなくてはおかしい……
しばらく、テーブルの上に一方的な論が叩き出される。

ナレッジはしばらく黙って聞いていたが、意味が明瞭な言葉でそれを遮った。

「隠している方法はあるよ。そりゃあな。」

「……は?」



「神秘犯罪者……あるいは神秘に触れたもの。
 その中で我々の保護や監視から逸脱しそうなものに対して行う処置は当然ある。」


「お前の言い方を借りれば没収する方法。
 それはいくつも、ほんとうにいくつもある。」

「だが私は、
 お前が抱えるものに対してそうしてやろうとは思わないし、
 その中からひとつとて提案してやるつもりはない。」



「…………」

「それは、どうして。」


「人として当然の悩みだからだ。」

「つまり、それは、人間が当たり前に、当然乗り越えるべき課題だからだ。」






言ってはならないことだ。


棚町ミヲは立ち上がった。
そんなはずはない。


「……人とは違う世界で生きて。
 人とまったく違うものを抱えて。
 誰にも理解されず、それに耐え続けることが?」


「そうだ。」


そんなはずはない。

「触れたものなんでも壊すことができて、
 何かを見るたび"そうなってしまえ"とよぎることが、
 それを隠して人と平然と会話し続けることが!?」


「そうだ。」


そんなはずはない!

「今!こうして!あなたの頭を砕こうと思えば!
 スイカみたいにバラバラにできることもか!」


「そうだ。お前がひとを簡単に殺せることも、まったく普通のことだ。」


「……ぐ、ぅ……」



「やはりお前は化け物だ、と言って欲しいのか?
 それとも、ひよわなお前にはできないよ、と言って欲しいのか。
 その逆か?構わないからそうしてごらん、と言われたいのか。」

「……言葉はどうでもいいとして。
 お前は今それを、誰に言わせようとしているんだ?」


「う、ぐ、ぅ、ぅ…………………!!」




「私もお前も、測り違えてなんかいないよ。棚町ミヲ。
 お前にも私にも、それができる。」

「人間はみんな、魔法みたいに何でも出来てしまう。
 みんな、魔法をどこかに隠している。
 魔法使いはお前だけじゃあないんだよ。」




棚町ミヲは、時間をかけて、ゆっくり、そっと、そぉっと、人間の頭から手を離した。


「……。」


「誰も、何も言わないね?」





------------------------------------------------------
今回の要約:
・棚町ミヲは、それが現実なら現実より自分が正しいと思う。