RECORD

Eno.1348 紙谷兄弟の記録

なんにもなくなっちゃった!


 色々、考えることが増えた。今まで黙らせたい一心でがむしゃらに、学業を疎かにしてでも修行や仕事を最優先してきた、はずだった。俺をコケにしたいがばかりに滅茶苦茶な修行させやがった親戚連中、出来損ないというレッテルを貼りやがったクソ親父、それを真に受けた関わりもない奴ら。全員黙らせたかった。俺はちゃんと出来るって思わせたかった。
 結局無駄だったな。

 言うことを聞かないからって、まさか殴るとは思ってなかったんだ。確かに親父と過ごした時間より親戚ん家に居た時間の方が長くて、親父にとって俺は他人の子みたいな認識だったとしても。むしろそっちの方がまずい気もするが。
 予想外のことで一撃目を避けれず、間髪入れずに2発目を腹にガッツリ入れられて、そこで吐いたのを慧門に見られたんだろうな。部屋に入ってこなかったのは偉い。もしくは誰かに回収されたのかもしれない。
 この人は思い通りにならないと殴る人なんだなと、諦めるきっかけになったとは思う。親戚が俺を殴るのは憂さ晴らしとかだろうって思ってたから耐えられた。よそのガキ押し付けられてニコニコ接するわけないし。じゃあ親父は何なんだよ。俺はもう親父の子ですらないのかよ。避ける気もなくなって無抵抗にボコられながら、そんなことを考えていた。

 翌日あんな事があって、状況確認のために親父に会いに行った。一言目は「報復に弟を使う卑怯者」だった。俺の意思が入っていなくても、俺がきっかけなのは紛れもない事実だ。何言っても言い訳になるから黙るしかなかった。もう親父の中での評価は変わることはないだろう。
 着信音が鳴り止まないからスマホの電源を切り、SURFの通知が煩わしいから非表示リストに片っ端からぶち込んだ。どうせこうなると思ったよ。努力が全部水の泡になった。

 あれからまともに飯が食えん。このままじゃ吐き癖が付いちまう。寝付きも悪い。慧門が隙あらば寝かせようとしてくる。普通俺が寝かしつける側なんだけどな。
 初対面の人に心配掛けて、先生に泣きついて、慧門と一緒に逃げろって言われた。それしかないとは俺も思ったし、このままじゃ慧門に何されるかわからん。でも、半分くらい、俺がこの家から逃げたいって気持ちが強かった。慧門のことをダシに使ったようなものだ。親父の言うとおり、俺は卑怯者だ。慧門がきちんと保護してもらえたら死ぬかと考えることが増えた。
 管理局の人の言うとおり家が摘発されたら、今までの生活が完全に無に帰す。慧門が安心して暮らせるようになるのはとても良いことだ。俺もこんなクソみたいな家が無くなれば多少気が楽になるだろ。楽になったから何なんだ?無いものねだりをしなくなるか。欲しいもの全部手に入らないままだったな。
 慧門が優しい家庭に引き取られて、普通の子として幸せに生きれるようになったら。やりたいことなんにもなくなるな。生きたいって思う理由全部なくなるな。

 努力したって無駄なのはよくわかった。慧門は逃がすべきだが、俺には価値が無い。ずっと大勢から言われ続けて来たのに、認めたくないっていうわがままで目をそらし続けた。もう無理、もう立てない。助けてなんてわがまま言えない。はっきり思ってしまった。死にたいって。
 世の中の大半の人は良い人だ。何で俺の周りはこうなんだ?きっと俺は前世で大犯罪でも犯したんだろうな。親父も、親戚も、俺自身だってろくでなしのド屑じゃん!!死にたいよほんとに。早く終わんないかな。