RECORD

Eno.340 月待 よすがの記録

神隠し

人がある日突然消えてしまう現象、神隠し。
天狗の仕業だとか、神様が連れ去ったとか、色々。
けれど本当は幼い子供が山で迷子になってしまったんだとか、人を間引くための口実だとか、そんなもの。
じゃあ"神隠し"の何が神秘かって、『残される側の恐怖心』が神秘たらしめていると僕は思う。

忽然と人がいなくなる。今まであったはずのものが急に無くなる。
畏怖は神秘を生み出し、固定概念を生む。
神隠しは怖いもの。攫われて、二度と会えなくなるなんて嫌。
遭いたくない、遭わせたくない、そんな恐怖心が産む神秘。僕個人の解釈だけどね。

「このワタシが、解明された後も惹かれる?おぼえていらレル?」


――「どうかな。覚えててほしい?お団子ちゃんは、もっとずっと好きでいてほしいの?」

覚えてて欲しいね。そこにあることを許して欲しい


だから秦秋葉の言葉は存外すんなりと入って来た。
白昼夢のような、知らない世界。そこに"存在することを許してほしい"。

世界にとっての異物は、なかなか表世界に馴染めない。覚えられない。触れられない。共有できない。
なんとなく、昔のことを思い出した。

僕はただ、そう出来なかっただけで"普通"に一等憧れてたんだって。

……だから、僕も自分の中の瑕を君に見せた。僕が普通になれなかった、一番の理由。
君の見る偽物の世界は僕にとっても偽物なんだって言った。
それでもこの日常を愛せる君は、強いと思うけどね。

だからさ。僕は君という異物を許すし、神秘を愛する。
君は僕に名前というよすがを刻んで、普遍化した世界でも覚えさせていてほしい。

「なら、月霧ユエウー。オマエをこの名前で呼ぶのは、世界でワタシだけよ。わかりやすクナイ?」


君がそのあだ名にどんな願いを込めたのか、僕は分からないけれど。この世界で僕をそう呼ぶのは君ひとり。

神秘が明かされればきっと君に触れられなくなる。
もしかしたらその美しい髪と吸い込まれるような瞳が褪せてしまえば見えなくなる。
それでも君がその名前を聞かせてくれるなら、


確かにその縁は、切れなくてもいいと思ったんだよね。