RECORD

Eno.220 笹杜 梨咲の記録

夢はなくとも夢は夢

入学してはじめての中間テストの出来は
一応、自分的にも満足のいくものだった。


けれど、予定外の“機関”の依頼のお陰で
最初に想定していた勉強が大幅に削れているのが気がかりだ。
今はまだ初歩を習っている段階だからいいけれど、
そのうち躓いてしまったらどうしよう。
取り返せる勉強時間はあるだろうか……。

“コツを掴んだら急に出来るようになった”なんて器用な質じゃない。
何度も何度も、間違った箇所を復習して。何度も躓いてやり直して。
そうしてやっと、身に付く。効率が悪くて自分でも嫌になる。



5月のファミレスで、みまもちゃんに話したことは嘘じゃない。
私は稼げる仕事に就きたい。
でも自分が、やる気があれば何だってできる!
というタイプでないことも十分わかっている。



例えば起業。社長として億の利益を目指すのはどうか。
まず私自身が人と話すのが苦手だ。けれど起業するならやるべきことは多い。
営業活動、広報、採用……株式会社なら株主への説明会。上場すればもっと。
調べただけで眩暈がした。私はとても人の上に立てる器じゃない。
そもそも、“興したい事業がある”から社長になるのであって
そのビジョンがない人間は、スタートラインにも立つ資格はない。
よって却下。


例えば投資。ある程度の元金を貯めて、投資に生きるのはどうか。
……厳しい。
私は自分でも心配性な方だと思う。
市場の些細な動きに一喜一憂してしまうのは目に見えている。
ああいうことは、裕福で時間にも精神にも余裕がある人か
肝が据わっている人が向いていることだと思う。
私という人間は、毎日朝起きて仕事に行くような地味な生活の方が性にあう。
よって却下。


例えば医師、あるいは薬剤師。
人の命を預かる仕事は、正直不安だ。
“機関”の仕事で応急処置を習ったけれど、
話が生き死ににまで及ぶとやっぱり厳しい。
そもそも、6年間も大学に通えない。そんなお金はない。
奨学金を貰う人も中にはいるのだろうけれど……
真剣に人を助けたい、と思っている人こそ、それは使われるべきだ。
よって却下。


弁護士や検察官、法曹関係の仕事。
司法試験の難しさは分かっている。それと共に
自分が無実だと信じていない人を弁護したり
自分が無実だと感じている人を法廷で問い詰めることができそうにない。
現職の人たちは、一体どうやって心の折り合いをつけているのだろう。
機会があれば聞いてみたいと思うことがある。私には無理だ。
よって却下。


あるいは国際線のパイロット?
これは、来年から女性の身長制限が撤廃されるというニュースを聞いて
真剣に調べてみた。
……けれど、制限が撤廃されても操縦席のサイズが変わるわけではなく
制限以下の身長では相当に苦労するだろう、と現職の方のサイトを見て凹んだ。
CAについても、多分同じことだろう。
よって却下。





……という調子で年収が多い職業を調べて回った結果
行きついたのが司法書士か、弁理士か、公認会計士だった。
ただ、前二つは法律関係の相談を受けることもあるらしく、苦手分野。
それなら公認会計士の資格を取って、英語の勉強もしてTOEICスコアを取り
BATIC(国際会計検定)とかUSCPA(米国公認会計士)の資格を取れれば
海外の監査法人に勤めることができて、年収を期待できるのでは。
というのが今現在の私の皮算用だ。
言うだけタダというやつ。
けれど、“言うだけ”にしないために最大限の勉強はする。そう決めた。





なんて打算的で保身に満ち溢れた進路選択だろう。
人の役に立ちたい、世の中の役に立ちたいと将来を決める人たちに対しては
恥ずかしくて到底顔向けなんてできない、そんな夢。



それでも、今はこれが私が“夢”と呼べる最大限の夢。
余計なことは考えず、走るための目標である夢。
私はこれを叶えたい。
叶えて、そして
――――。