RECORD
Eno.283 眞奈部 周の記録
『五月雨の警笛』:1
思えば、あの日。
僕がきっと、そうやって生きていくことになる切っ掛けだったのかもしれない。
じめじめして、どんよりした、灰色の雲がずっと頭上に揺蕩うものだから、
その日家族みんなでのお出かけでもなきゃ、気分はどん底に落ち込んでいたことだろう。
その日、僕たちの家族は、地元の石巻市から、■■仙石線沿いに、
ゆったりと父の運転する車でドライブを兼ねて、
仙台市の某商業施設で映画を見にいこうって事になった。
僕と、お父さん、お母さん、そして□□□□の四人は、
あいにくの空模様の下でも、車の中に、FMラジオから流れてくる、
ちょっと陽気な調子のおじさんが歌う歌に合わせてふざける、
笑顔が絶えないドライブだった。
道中、僕が催したので、コンビニに寄って済ませた後、
お母さんと僕は、自分の好きなお菓子と、□□□□の好きなジュースを買って、
外に出てきた。
出てすぐに、僕の足が止まった。コンビニの入り口から出てきてすぐに、
つぅん、と、鼻の奥に来るような、嫌なにおいがした。
なんの匂いか分からない。嗅いだことはないけど、とにかく嫌なにおいだ。
鼻をつまみながら、手を繋いでいたお母さんに尋ねた。
「ねえお母さん、なんだか変な匂いしない?」
「え?なんだろう。お母さんはなんともないけど……どんなにおい?」
「んーん、わかんないけど、とにかくくさくって……」
困惑するお母さんの様子に、幼いながらに違和感を覚えていた。
匂いがそんなに近いという訳じゃないけれど、かといって遠くもない。
少なくとも、コンビニの駐車場の何処かから、その匂いはしてる気がする。
天気が悪かったので、もしかして海沿いで降った雨風が、
砂浜や海の水の匂いを運んできたのかもしれない。
そう、最初は思った。
けれど、お母さんと一緒に車に戻ってきたとき、
思わず「うぇ……」とえずいてしまった。
匂いが、とんでもなく強くなっていた。
思わず顔を顰めながら変な声を出した私に、□□□□と一緒に車で待ってたお父さん、
お母さんと□□□□が、不思議そうに見てきて心配してくれた。
「周ちゃん、大丈夫?」
「車酔いしちゃったのかな?もう少し休む?」
二人の声は聞こえたけど、返事ができなかった。
というよりも、口が開けられなかった。
余りにも強すぎる悪臭は、ほんの少しだって息をするのもつらかった。
だけど吸わないとそれはそれで息苦しくて、口と鼻を両手で押さえながら、
「すごくくさい!へんなにおい、さっきよりすごくなってる!」と、必死に訴えながら、
その臭いが混じった空気を取り込む身体が、悲鳴をあげた。
お母さんとお父さん、□□□□も、みんな首をかしげる。
だけど、流石に、あまりにも尋常じゃない様子に心配になったお母さんが、
僕の手を繋いで、お父さんに「少し近くをお散歩してくるから」と言って、車から離れていった。
この瞬間――ぞっとした。
車から離れていくことで、臭いは薄れた。
あの、言いようのない悪臭の元――後に全く似たような臭いを、動物の死体から嗅ぐことになった。――が、
僕たちの乗っていた、お父さんの車の天井の上から、
夥しい数の気配と共に流れ落ちてきている事に気づいてしまったからだ。
五月雨の警笛 - ■■部■■
僕がきっと、そうやって生きていくことになる切っ掛けだったのかもしれない。
じめじめして、どんよりした、灰色の雲がずっと頭上に揺蕩うものだから、
その日家族みんなでのお出かけでもなきゃ、気分はどん底に落ち込んでいたことだろう。
その日、僕たちの家族は、地元の石巻市から、■■仙石線沿いに、
ゆったりと父の運転する車でドライブを兼ねて、
仙台市の某商業施設で映画を見にいこうって事になった。
僕と、お父さん、お母さん、そして□□□□の四人は、
あいにくの空模様の下でも、車の中に、FMラジオから流れてくる、
ちょっと陽気な調子のおじさんが歌う歌に合わせてふざける、
笑顔が絶えないドライブだった。
道中、僕が催したので、コンビニに寄って済ませた後、
お母さんと僕は、自分の好きなお菓子と、□□□□の好きなジュースを買って、
外に出てきた。
出てすぐに、僕の足が止まった。コンビニの入り口から出てきてすぐに、
つぅん、と、鼻の奥に来るような、嫌なにおいがした。
なんの匂いか分からない。嗅いだことはないけど、とにかく嫌なにおいだ。
鼻をつまみながら、手を繋いでいたお母さんに尋ねた。
「ねえお母さん、なんだか変な匂いしない?」
「え?なんだろう。お母さんはなんともないけど……どんなにおい?」
「んーん、わかんないけど、とにかくくさくって……」
困惑するお母さんの様子に、幼いながらに違和感を覚えていた。
匂いがそんなに近いという訳じゃないけれど、かといって遠くもない。
少なくとも、コンビニの駐車場の何処かから、その匂いはしてる気がする。
天気が悪かったので、もしかして海沿いで降った雨風が、
砂浜や海の水の匂いを運んできたのかもしれない。
そう、最初は思った。
けれど、お母さんと一緒に車に戻ってきたとき、
思わず「うぇ……」とえずいてしまった。
匂いが、とんでもなく強くなっていた。
思わず顔を顰めながら変な声を出した私に、□□□□と一緒に車で待ってたお父さん、
お母さんと□□□□が、不思議そうに見てきて心配してくれた。
「周ちゃん、大丈夫?」
「車酔いしちゃったのかな?もう少し休む?」
二人の声は聞こえたけど、返事ができなかった。
というよりも、口が開けられなかった。
余りにも強すぎる悪臭は、ほんの少しだって息をするのもつらかった。
だけど吸わないとそれはそれで息苦しくて、口と鼻を両手で押さえながら、
「すごくくさい!へんなにおい、さっきよりすごくなってる!」と、必死に訴えながら、
その臭いが混じった空気を取り込む身体が、悲鳴をあげた。
お母さんとお父さん、□□□□も、みんな首をかしげる。
だけど、流石に、あまりにも尋常じゃない様子に心配になったお母さんが、
僕の手を繋いで、お父さんに「少し近くをお散歩してくるから」と言って、車から離れていった。
この瞬間――ぞっとした。
車から離れていくことで、臭いは薄れた。
あの、言いようのない悪臭の元――後に全く似たような臭いを、動物の死体から嗅ぐことになった。――が、
僕たちの乗っていた、お父さんの車の天井の上から、
夥しい数の気配と共に流れ落ちてきている事に気づいてしまったからだ。
五月雨の警笛 - ■■部■■