RECORD

Eno.305 神楽 紗耶の記録

これまでのこと

──私は小さい頃、不思議な経験をしたことがある。

10歳くらいのころ、アスレチックで遊ぼうと近くの山に入っていった。
何回も行ったことがある場所で、慣れていたから一人でも大丈夫だと思った。
でもその日は不思議と、通ったことのない道が気になって。
寂れたお社。何が祀られているのかもわからない、山の中の小さなそれを見つけた。



別に拝んだりしたわけじゃない。何があるのかなって気になって汚れた鳥居をくぐっただけ。
そしたら急に眠くなって



……そこからのことは、あんまり覚えていない。
私は気付いたら鳥居の外で眠ってしまっていて



心配そうに駆け寄ってきた幼馴染に背負われて山を下りていた。
どうやら2日間私は行方が分からなくなっていたみたいで、両親にも先生にもたくさん心配をかけてしまったようだった。
2日間、私はどこで何をしていたのだろうか。
何も覚えていないけれど、その時からずっと自分が世界のレイヤーから浮いてしまった感覚があった。
私の中の"何か"が変わってしまったような。
そんな感覚も一年くらいすれば慣れてしまって気にならなくなったけど。


「ここは北摩市の……南部地区のあたりでしょうかね?
 ああいや、もちろん推定ですよ。なぜならここは表世界とは異なるところ――」


「――『裏世界アザーサイド』、ですからね」


その言葉を聞いた時、ふと10歳の時の話を思い出した。
もしかしたら関係があるのかも、と思ったりして。

大きな『変化』を前に、私はぎゅっと黒い手袋を握りしめたのだった。