RECORD
Eno.329 九条 陶椛の記録
トリカゴ
神秘憑き。
何らかの要因にてその身に神秘を帯びた人間。
あるいは物品を指す言葉。
偶然、願い、宿業、事故。
さまざまな道筋にてそれらは結びつく。
それが悪しきものであれば祓う、という処置もある。
そうではない、もしくは分かち難い状態にあるものは
それとの付き合い方を模索していくことになる。
事故で歩けなくなったのでこれからどう生活するか
という件が
異音を放つ足が増えたのでどう生活していくか
に、なったぐらいの話だ。
九条陶椛は普通の高校生
……に、なるはずだった。
事故により怪奇の核を内包する少女は
その身に深く神秘を帯びている。
表の世界では普通の高校生にも見えるだろう。
すこし変わった人ぐらいの印象は持たれている
……かもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
事故による傷も塞がり
心身が落ち着いた頃。
各種確認などのために陶椛が裏世界へと
足を踏み入れた途端に“それ”は起きた。
⦅此処は どこだ⦆
⦅吾は何故、此処にいる⦆
⦅吾の眠りを解いたのか⦆
⦅飛べぬ 飛べぬ 飛べぬ 何故⦆
⦅吾になにをした おのれ おのれ⦆
⦅人間 人間 人間 人間 人間 人間 人間 人間 人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間⦆
声が響く。外ではなく胸の内で。
困惑、怒り、怨嗟。
自分とは別の意志が荒れ狂い、反響する。
姿の見えぬ怪鳥が鳥籠の中で狂い鳴き
羽撃き足掻くように。
「う あ…!? あ゛あ゛あ゛ゃめ゛ぇ゛
…か、はッ…」
胸を押さえ、堪えきれずに吐瀉する。
激しく痙攣し、床に倒れた。
涙と涎にまみれてのたうつ。
人の、それもまだ未成熟な小柄な少女の体で
耐えられるようなものではない
……はずだった。
⦅人の……娘⦆
不意に、暴虐の嵐が静まる。
⦅吾は…人の娘の内に在るのか。
何故だ。吾は封から解かれたのに
何故、このような…⦆
「そ、れ は、事故で……ッ」
⦅黙れ、人間。ふむ。……ふむ?
…記憶を辿れるな。
なるほど、なるほど喃⦆
⦅吾を封じた社をぶち壊しおったと。
それで吾は此処に在るのか⦆
「う、ううううう……」
血肉を共有し神経も絡み繋がることで
怪奇に記憶を探られている。
勝手に心をまさぐられるそれは
とてつもなく不快だ。
しかし抗えない。
追い出すこともできない。
⦅しかし、娘と言うにはいささか
育ちすぎているのが不満か⦆
⦅まぁ、よかろうて。
おぼこの身体は存外、居心地が好い。
吾の仮住まいとして使ってやろう。
ありがたく思うがよいわ⦆
「な、なに勝手なことを……!」
⦅ふん。勝手なのはそちらであろう?⦆
事故とはいえ社を壊してしまったという
後ろめたさはあった。
特定の宗教を信仰しているわけではないが
神仏のそれに対する畏敬の念は当たり前のもの
として持ち合わせていた。
「…い、今は、私があなたの社です、よ?」
⦅はン。馬鹿を言え。
このような狭くて貧相な社があるか⦆
「はい、前言撤回しまーす。鳥籠です。
あなたという害悪クソ鳥をお空に
放たないようにする、鳥籠です!」
⦅貴様ァ!⦆
「貴様じゃないですぅー
とーかちゃんですぅー!」
端から見ると虚空に手を振りかざし
一人で暴れているようにも見える。
腕を振り回すとそれに付随して巻き起こる風が
近くにいた低級霊を切り裂き巻き上げ粉砕し
暁の空へと還した。
凶風が荒れ狂い
風に乗って鬼火が踊り狂う。
そうしてひとしきり暴れ
地形を変えて周囲の怪奇たちを一掃すると
疲れ果てて地面に座り込んだ。
「…不毛ですね。やめませんか、もう」
⦅そうだな。生えとらんのかおぼこ⦆
「黙れェェェッッッ!!!!」
「……はー。もうやだ。あの、ですね。
協力、してくれませんか。
私…こちらで戦う力が要るんですよ」
⦅姉のことか。
吾が攫ったわけではないぞ?⦆
「…でしょうね。封印されてましたし」
⦅吾の好みでもないしな。
まぁ、よいであろ。
吾の力と相性がいいのもわかった。
暴れさせろ。気晴らしになる⦆
「ありがとう、クソ鳥!!」
⦅黙れクソおぼこ!!⦆
⦅……七乙だ。
姑獲鳥の、七乙⦆
「わかった、なおなお!
ありがとね!!よろしく!!」
⦅………はぁ。
それがそなたの流儀か。
わかったわかった。
もう、それでいい……⦆
こうして、九条陶椛は戦う力を得た。
裏世界を渡り往くために。
それを適切に制御する術を学ぶのと学費に苦しむことになるのはまた、別のお話。
何らかの要因にてその身に神秘を帯びた人間。
あるいは物品を指す言葉。
偶然、願い、宿業、事故。
さまざまな道筋にてそれらは結びつく。
それが悪しきものであれば祓う、という処置もある。
そうではない、もしくは分かち難い状態にあるものは
それとの付き合い方を模索していくことになる。
事故で歩けなくなったのでこれからどう生活するか
という件が
異音を放つ足が増えたのでどう生活していくか
に、なったぐらいの話だ。
九条陶椛は普通の高校生
……に、なるはずだった。
事故により怪奇の核を内包する少女は
その身に深く神秘を帯びている。
表の世界では普通の高校生にも見えるだろう。
すこし変わった人ぐらいの印象は持たれている
……かもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
事故による傷も塞がり
心身が落ち着いた頃。
各種確認などのために陶椛が裏世界へと
足を踏み入れた途端に“それ”は起きた。
⦅此処は どこだ⦆
⦅吾は何故、此処にいる⦆
⦅吾の眠りを解いたのか⦆
⦅飛べぬ 飛べぬ 飛べぬ 何故⦆
⦅吾になにをした おのれ おのれ⦆
⦅人間 人間 人間 人間 人間 人間 人間 人間 人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間⦆
声が響く。外ではなく胸の内で。
困惑、怒り、怨嗟。
自分とは別の意志が荒れ狂い、反響する。
姿の見えぬ怪鳥が鳥籠の中で狂い鳴き
羽撃き足掻くように。
「う あ…!? あ゛あ゛あ゛ゃめ゛ぇ゛
…か、はッ…」
胸を押さえ、堪えきれずに吐瀉する。
激しく痙攣し、床に倒れた。
涙と涎にまみれてのたうつ。
人の、それもまだ未成熟な小柄な少女の体で
耐えられるようなものではない
……はずだった。
⦅人の……娘⦆
不意に、暴虐の嵐が静まる。
⦅吾は…人の娘の内に在るのか。
何故だ。吾は封から解かれたのに
何故、このような…⦆
「そ、れ は、事故で……ッ」
⦅黙れ、人間。ふむ。……ふむ?
…記憶を辿れるな。
なるほど、なるほど喃⦆
⦅吾を封じた社をぶち壊しおったと。
それで吾は此処に在るのか⦆
「う、ううううう……」
血肉を共有し神経も絡み繋がることで
怪奇に記憶を探られている。
勝手に心をまさぐられるそれは
とてつもなく不快だ。
しかし抗えない。
追い出すこともできない。
⦅しかし、娘と言うにはいささか
育ちすぎているのが不満か⦆
⦅まぁ、よかろうて。
おぼこの身体は存外、居心地が好い。
吾の仮住まいとして使ってやろう。
ありがたく思うがよいわ⦆
「な、なに勝手なことを……!」
⦅ふん。勝手なのはそちらであろう?⦆
事故とはいえ社を壊してしまったという
後ろめたさはあった。
特定の宗教を信仰しているわけではないが
神仏のそれに対する畏敬の念は当たり前のもの
として持ち合わせていた。
「…い、今は、私があなたの社です、よ?」
⦅はン。馬鹿を言え。
このような狭くて貧相な社があるか⦆
「はい、前言撤回しまーす。鳥籠です。
あなたという害悪クソ鳥をお空に
放たないようにする、鳥籠です!」
⦅貴様ァ!⦆
「貴様じゃないですぅー
とーかちゃんですぅー!」
端から見ると虚空に手を振りかざし
一人で暴れているようにも見える。
腕を振り回すとそれに付随して巻き起こる風が
近くにいた低級霊を切り裂き巻き上げ粉砕し
暁の空へと還した。
凶風が荒れ狂い
風に乗って鬼火が踊り狂う。
そうしてひとしきり暴れ
地形を変えて周囲の怪奇たちを一掃すると
疲れ果てて地面に座り込んだ。
「…不毛ですね。やめませんか、もう」
⦅そうだな。生えとらんのかおぼこ⦆
「黙れェェェッッッ!!!!」
「……はー。もうやだ。あの、ですね。
協力、してくれませんか。
私…こちらで戦う力が要るんですよ」
⦅姉のことか。
吾が攫ったわけではないぞ?⦆
「…でしょうね。封印されてましたし」
⦅吾の好みでもないしな。
まぁ、よいであろ。
吾の力と相性がいいのもわかった。
暴れさせろ。気晴らしになる⦆
「ありがとう、クソ鳥!!」
⦅黙れクソおぼこ!!⦆
⦅……七乙だ。
姑獲鳥の、七乙⦆
「わかった、なおなお!
ありがとね!!よろしく!!」
⦅………はぁ。
それがそなたの流儀か。
わかったわかった。
もう、それでいい……⦆
こうして、九条陶椛は戦う力を得た。
裏世界を渡り往くために。
それを適切に制御する術を学ぶのと学費に苦しむことになるのはまた、別のお話。