RECORD

Eno.50 架川琳司の記録

Before Ep.0

形ばかりの祖父の葬儀を終え、北摩に向けて帰路に着く。
残った手続きはほぼ全て伯母が引き受けてくれた。
その後、最低限の家屋の維持は町内会の方で人手を回してくれるらしい。

自分のやるべき仕事なのに頼りきりで申し訳ない気持ちはあるものの、
身内のいなくなった家に頻繁に帰る動機もあまりないのが実情だ。
それでもせめて年に1度くらいは戻りたいと思う。

――竜棲まう清流の地、神秘の癒し手の庭、『裏』に誘うキンミズヒキの野。

もはや遠いその風景は、いつか自分が還る場所でもあるから。

 *

駅のホームに着くとスマホが震えた。
SMSを見れば圏外の間に何度か着信があったようだ。
履歴の内容を確認した次の瞬間、再び着信表示が出る。
今見たばかりの連絡先、北摩のアパートの管理会社からの電話だった。

「はい、架川です。お世話になってます…………え?
 火事ってその……火事、ですか?」

我ながら間抜けな言い様とは思ったが、とっさに言葉もなかった。
管理会社の職員の話によると、昨日アパートが突然火災に見舞われ
あっという間に焼失したらしく、その原因を調査中だという。
今のところ誰かの居室からの失火ではなく
設備部分の故障による発火が濃厚とのことだった。

自分の不始末ではなかったことに安堵したところで、
次に頭に浮かぶのは燃えてしまった家財道具のこと、
そして今後の住まいのことだ。
いや、それ以前に今夜、戻ってから眠る場所さえないのか?

「…………」

途方に暮れて沈黙していると、こちらの心情を知ってか知らずか
電話口の向こうは一方的に話を続けた。
保険がどうの、警察がどうの……細かい話はあまり記憶にない。
ただ、少なくとも今夜の宿には駅前のビジネスホテルが提供されること、
今後1か月程度は同じ家賃で別の物件に居住できることだけは理解した。

「……まいったな」

いったん電話が切られると、ようやくぼやきが口をついた。
通話中も相槌を打ち最後は失礼しますと挨拶もしたはずだが、
息すらまともにできていなかった気がする。
意識的に大きく息を吸い込み、そして思い切り吐いた。
明日から通常の大学生活に戻るのに、自失している場合でもない。

手にしたままのスマホがまたもや着信を告げた。
それが伯母からであることを確認して通話ボタンを押す。
乗る予定だった電車の到着を告げるアナウンスに背を向けると、
スマホから流れてくる切迫した声に耳を傾けた。