RECORD
6月3日、自宅の蔵で
どないしょっか、って思てたらおとんが読んでもええよって一緒に読んでくれた。
〇月✕日。よく晴れた日。
馴染みの酒屋で父上の好きだった酒を買い、曾祖母から続くという、元は母上が店主をしていた花屋で、母上が好んでいた花を買った。妹君からも『今年もありがとう』と言われたが、「当然の事だ」と言っておいた。
酒精の強い酒も、花の香りも未だ苦手だが、今日ばかりは気にならぬ気がした。
向かったのは二人の墓。もう何度足を運んだだろう、もはや数え切れぬがそれはいい。墓石を磨き、周囲を綺麗にして、それぞれの土産を置いてやる。
「父上。自分──オレは、やっと少し酒が呑めるようになった。貴方ほどでは無いが、月夜を見て呑む酒は、美味いと思うよ」
「母上。貴女の花屋は今、妹君が切り盛りしているよ。この花もそこで買ったんだ、母上の好きな香りの花……この日、この場所だけでなら、この香りも悪くはないよ」
世間話もそこそこに、本題といこう。
「二人とも、聞いて欲しい。オレは……鐵は、生涯を共にすると決めた、伴侶を見つけたんだ」
「名は緋鐘 桜。うちの近所、大通りの緋鐘橋があるだろう? あそこの大地主の娘だ」
「オレも驚いたよ。たまたま仕事で護衛の任に着き、仕事をこなしたまでだったのだが……何故か、惚れられてしまったようでな。初めは断った、『自分には刀しかない』とな」
『それでも良いのです。わたくしは……桜は、貴方様、鐵様だけに、咲き誇りとうございます。わたくしが、初めて恋心を持った貴方様だからこそ……。このようなおなごは、お嫌いでしょうか……?』
「そう困ったように微笑む姿に、不覚にも些か胸を打たれてしまったようだ。
桜の花のような、抱けば折れてしまうのではないかというほど儚く幻想的な佇まい。それでいて、凛として譲らない自己を持つ所もあると来た」
その時、腹を決めた。
「そこまで言うなら……いや、自分もそなたに惹かれてしまったようだ。未だ刀以外を知らぬ身で良いならば、そなたを護る刃であることを、どうか許して欲しい」
──あぁ、それから後は大変だったとも。嬉し泣きに自分の胸に崩れる彼女を抱きとめたは良いものの、どうすればどうすればと慌てふためき、なるべく優しく、落ち着かせようと抱きしめたことは、いまだ忘れられぬ記憶だ。
「驚いたかな、二人とも。刀一筋のオレが、誰かを嫁に迎えるなど」
話込めばいつか、日も傾いてきた。最後に、と言葉を締めた。
「母上からいただいたこの身体と、父上からいただいたこの刀と……オレ自身の心に、ここに誓おう」
「この鐵、命尽きるその時まで桜を護ると。父上、貴方が母上へそうであったように。 ……ようやく、話すことが出来た。では、また季節が巡り、この時期にまた来るよ。次は……そうだな、宝物が増えていればよいと思う」
そして墓へ、会釈をして去った。心はとても清々しく、一層励まねばならんと奮起に満ちていた。
もっと書いていたいが、桜を待たす訳にはいけない。今宵は、ここまで──。
「わ〜……めっちゃ素敵。この緋鐘って、アタシの名前と同じ漢字やんな、びっくりやで! ……なあおとん、アタシもお花買って、おかん喜ばせたい!!」
今度、北摩生花行ってこ!