RECORD

Eno.350 竜胆 棗の記録

憧憬

「いつだって正しい事を為せ」

俺に探偵としてのノウハウを教えてくれた男の言葉だ。
毎日吐くまで酒は飲むわ、やめろつってんのにタバコは吸うわ、依頼料全部ギャンブルで溶かすわ、性格もカスだし酷い人だったがそういう所はしっかりしていたと思う。
どれだけダメ人間だとしても、人としての一線は大切にする人だった、困ってる人は絶対助けるし、そうしてる時の彼は本当にカッコよかった。

だからなんだろうな、彼の周りにはいつも人が居て、彼に引かれていた気がする。

「人と怪奇がお互いに手を取り合って生きていく為、私達は必要なんだよ」

これは俺の事を一人の子供として愛してくれた人の言葉。
その人は、怪奇も人も等しく愛していた。
怪奇にも人にも、悪を為そうとするやつはいる、だけど逆に人と怪奇と仲良くしようとするやつだっている。
そういう人たちの日常を守って両者の架け橋になれるようなそういう存在になりたいのだと、彼は言っていた。

俺の父親達は俺と違って人間が出来てて、誰かを救うことが出来る人達だった。

昔はずっと、漠然と自分もそうなるのだろうと思っていた、いや、そうなりたかった。

だけど、今の俺は
ただ父親の真似をしているだけ、今の俺には信念も何も無い。
ただただ、もう居ない父親の背中を追いかけているだけだ。

そんな奴に誰かを救えるはずがないのに、俺は本当に何をしたいんだろう。