RECORD

Eno.112 天降川もあの記録

#-- 「閑話 その2」

 六月四日。

 世間一般では虫の日だとか、虫歯予防デーだとか、蒸しパンの日だとか、日付にちなんだ語呂合わせから記念日が制定されていたりする。
 多くの人にとっては何のことはない日だけれど、私にとっては大事な日。

 自分の誕生日をどう過ごすか、と尋ねられれば「何か特別なことをしたりはせず、いつも通りに」と答えがちだ。
 どこかへ出かけるとか高い買い物をしてみるとか、そういう浮足立つようなことは避けて、なるべく自然体で過ごすのだ。
 もっとも、朝食にいつもより手間を掛けたり、帰宅中に寄り道してスイーツを買っていくくらいはするけれど。

 他人をお祝いすることに比べて、自分が祝われるのは如何せんこそばゆい。
 この時期に星座や誕生日の話題に乗っからないのも、意図せず催促しているようで気が引けるところがある、というのが理由だ。


 学生寮に住み始めた去年に続き、今日も夜までには実家に帰って家族と一緒にささやかなお祝いの食事を取る。
 毎週、土日どちらかは帰るよう心がけていても、やはり住み慣れた我が家の安心感は格別だ。

 十七歳になっても、両親は誕生日プレゼントの準備を怠らない。
 お母さんからは着ぐるみ的な趣がある、フード付きサメパジャマを渡された。
 一体どこで見つけてくるのか不思議で仕方がないが、フードに描かれたデフォルメの利いた愛嬌あるサメフェイスには少しときめいた。
 お父さんから贈られた万年筆は、落ち着いた黒と青のボディのあちこちに金色のラメがあしらわれており、どうやら満天の星空を表現しているとのことだった。
 その美しさに目を見張るものはあっても、見るからに高価で、さすがに普段使いする度胸がない。
 お守りに持ち歩くか、もしくは寮の机の引き出しで眠ることになりそうである。

 夜食代わりに、実家までの道中で買ってきたモンブランをつまんで、ゆったりとした時間を過ごす。
 近頃、身の回りが少しずつ慌ただしくなる中で、この何気ない日常をどこまで大切にしていられるだろうか。