RECORD

Eno.233 綾羽 衣織の記録

神秘(2)

前回「神秘」 https://wdrb.work/otherside/record.php?id=2246



「どうですかその後。彼女の神秘に関しての調査」

神秘監理局員は少女の神秘に関して、何か進展はないかと気にかけていた。
神秘抑制の為、解明を継続していた局員は浮かない顔をする。


「統計として結果が出ているモノなら……
 彼女が担当したエリアでの負傷者数が圧倒的に少ない」

「守ることに特化した神秘ですからね。
 そういう結果が数字として出ることも頷けます」

怪奇との戦闘時になれば、彼女は分かりやすく障壁を展開している。
それによって救われる者が出ることは道理だと言えるだろう。


「彼女が訪れただけで安堵する者も出始めているぐらいだ。
 あくまでも民間協力者であるというのに、全く笑えないね」

「……ですが、違うんですよね?
 彼女の神秘。障壁を用いて怪奇から身を守るモノではない」

「そう。恵比寿天には大漁、航海安全の加護があると言い伝えられているが
 もっとも有名な加護は商売繫盛。まるきり別物だ」

怪奇を討伐した際に副産物として入手可能な素材。
それを大漁及び航海安全の延長と捉えるには少々違和感がある。
仮にそうだとすれば漁が出来なければならない。彼女は怪奇を倒せないのだ。


「商売繫盛とは言いましたが、彼女は神秘を得てから
 突然裕福になったりなどはしていませんよ。それならすぐにこちらで分かります」

「同意見だ。だから商売繫盛に関する神秘の恩恵を受けていないと判断出来る。
 つまり、彼女の神秘は大漁、航海安全、商売繫盛の恩恵を得るモノではない」

その発言に局員は首を傾げる。
そうでは無いのなら、一体彼女は我々の前で何をしているというのだろうか。
少なくとも航海安全の部分に関しては機能しているように思える。


「大前提がおかしいですよ。
 恵比寿天の影響を受けた神秘だとは判明しているじゃないですか」

「元を辿ること自体は別に難しい事では無かったんだ。
 神の影響を受けた神秘は良くも悪くもやることが派手だ。
 神秘によって神秘のルーツを辿りやすい」

超常には超常。大きな力であればある程、それが何処から来たのか辿れる。
問題は、そこまで分かっていて神秘の内容が不明瞭であることなのだが……


「商売繫盛の神から授かった力で、商売繫盛が機能していないと
 考えるから迷宮入りしてしまうのではないですか?
 航海安全の部分だけが機能している。それなら辻褄も合うじゃないですか」

もはや考察のしようがないと少々投げやりになる。
しかし、納得のいかない局員はここで一つの疑問にぶつかった。


「……そもそも商売繫盛の神秘とはなんだろうか?」

「えぇ!? それは……神秘を行使すると儲かるとか」

「全く具体的な部分が存在していない。何故儲かる?」

なぞなぞのような問い。まるで子供の質問だ。
しばらく思案し、局員は口を開いた。


「利益のある行動をするから。ではないですか?」

「神秘を行使することによって利益を得る。
 違うな、彼女の障壁は航海安全の部分が、
 ……待て、待て待て。利益を得ているのが彼女とは限らない!」

何かを閃いた様子を見せるが、その内容を聞いてもピンと来ない。
一体誰がどのような利益を得ているというのだろうか。


「つまり……どういうことでしょうか?」

「彼女が神秘で怪奇を倒す事が出来ないのは利益を、
 怪奇を討伐した際に生じる素材を他者へと回し、物資を取引させる為だ。金は天下の回り物。
 独占しない方が全体的な金回りが良くなり、結果的に経済が活性化する」

「なるほど」

少しだけ腑に落ちる。確かにその理論で言えば
航海安全を用いて商売繫盛を実現していると言える。


「そして、彼女が商売繫盛の神秘を行使しているというのであれば、影響が出る。
 火を生み出す神秘が使える者は、物がどのぐらいで燃えるのかが分かる。
 これは知識だ。神秘の行使ではない。それと同じことが起きる」

問題点が少しずつ明るみになる。
表でも裏でも。神秘の行使という部分にのみ、注意を向け過ぎたのだ。


「それだと……彼女は知識として理解しているのですか? 商売繫盛を?」

「恐らく理解していない。理解すれば彼女は恩恵を自身へと向ける事が出来る。
 この神秘は彼女を中心として周りへ影響を与えるモノだ」

「では、無自覚に周りへと商売繫盛を与える?」

局員は無言で頷いた。
大漁、航海安全、商売繫盛。恵比寿天の祝福は確かに存在する。







「そんなまさか」