RECORD

Eno.232 月影誠の記録

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「もしかして『俺なんかにお祝いされる価値ないのに、
 みんなにワザワザ労力かけさけて申し訳ない』って感じ?」



ひばりに、自分が誕生日を明かさないことの理由を尋ねられた。
正確には、俺が「誕生日を明かすことはできるけれど」と歯切れ悪く口にしたから、
そこにネガティブな感情が込められていると推測したのだろう。
大正解だ。誕生日は生まれてきたことを祝う、その人が最も肯定されるべき1日のことで。
一般的にはめでたくて。俺としても、特別な日常となり得る日を応援したくて。
……応援、したくて。


「……誕生日にいい思い出がないのと。
 親の血の繋がりを再確認して、素直に喜べないって分かってるから。
 だから黙ってる」



本当に、この日は嫌いだ。
自分の誕生日は親の監視が強くて『裏世界』には足を運べない。
ロクに祝われるわけでもない。ただただ生まれてきたことを否定される日。
比べられて、舌打ちされて、閉じ込められて。
どっさりと並べられるワークと、次々に振る舞われる皮肉の数々。
それらの全て耐え忍んだとしても。
何よりも嫌なのは、こんな嫌な奴らに自分が生み出されたのだと実感することで。



世間は夏休みだから、友達に会うこともない。
お盆前日はどこも何かと忙しい。

監視が強いから、一番会いたかった相棒にも会えない。
一番不自由で、一番苦しくて、一番我慢をしなければならない一日が、誕生日だ。

「……そ」


「でも、アヤメちゃんだけは教えてあげて
 きっと貴方に誕生日プレゼントのお返しをしたいっておもってるから…」








結局。俺は、黙っている。誰にも伝えていない。
理由は簡単。言ったところで誰も幸せになれないのだから。
誕生日を素直に受け入れられないやつが、誕生日を祝われたならばどうなる?
相手を傷つけて、行為が蔑ろにされたことに傷ついて、それを見た自分が傷ついて。
そうなるくらいなら、何も知らないで黙っていた方がずっといい。
俺だけが苦しくて、俺だけが何気ない顔をしていれば、それでいい。


いつか。
いつか、人の誕生日をお祝いして。お祝いし続けて。
『誕生日はお祝いするもので、歓ぶべきもの』なのだと理解して。
皆が楽しそうにしている姿を見て、それを外側から眺めて。
特別な日常を自分に刻み付けて。
幸せな一日だと、刷り込むことができたならば。


「―― 自分の生誕を、心から喜ぶことができるのだろうか」



あぁ、そうだ。
明日、学校に行く前にケーキを買っていかないとな。













分かってるんだよ、分かってるんだよ親の干渉なんてもうどこにもないくらい。
自分の生を否定する人はもうどこにもいないことなんか分かってるんだよ。理解しているんだよ。

何度も何度も何度も言われた。お前は出来損ないだって。お前なんか生むんじゃなかったって。
俺が更生させてやるって。私が勉強を見てあげるって。
そんなことも分からないくせに俺の弟なんかいらないって。
出来損ないのくせに弟であることが気に入らないって。
勉強ができないくせに生きていることが信じられないって。
何の努力もしないことも。成績が優れないことも。
何の価値もない人間の分際でうちの子を名乗るなって。
反論があるなら社会を見下すほどの成績を見せつけてみろって。
それができない内はゴミ同然だって。


「―― じゃあ!!」


「じゃあ!! 結局は親に応じなかった
 俺が悪かったって話だろ!!」


「分かってんだよ言いなりになって兄貴みたいに
 なっていたら良かったんだって!!」


「…………分かってんだよ、そんなこと」




―― それを認めたくないから。
この日は、ありったけの自己否定で迎え入れる。

誰か『俺』を肯定してよ。