RECORD

Eno.255 川原の記録

(非)河童考

「ウィッグちょっとツラいカンジ?」
「……そうですね。正直なところ」
「おけおけ。あーしもムリさせたいとかないし」

 そういう初対面だった。
 今も変わらず長い髪を高い位置で束ねているから、首を傾げると揺れる。
 一文字でマトイは一見して読みにくいから、とひらがなに開く気遣いができる少女だった。

 その時の私は彼女が仕立てた衣装いくつかをマネキン代わりに着せ替えられる役で、私が写真に撮って問題ない同僚たちの中で平均に近い体格だったから、という理由だった。
 鴇多は薄く、ミツバ叡山はまだ成長期で、タカツカは縦に長い。
 彼らはなかなか似合う服を選ぶから難しい、とは彼女の評だ。

「でもあれ。ちゃんとケアしたスキンヘッド、イカす」
「……ありがとうございます?」
「ん。褒めてる、褒めた」

 使われずにしまわれるウィッグを見る視線は惜しそうでもなく、事実を受け止めるだけのものだった。

「やっぱ姿勢いーから様んなるね」
「そうでしょうか」
「そ。背筋曲がるとシルエット崩れるし……スーツとか着ないん?」
「鴇多さんに止められた一式ならありますが」
「え見たい」

 またいずれ、の口約束は数年越しになった。


 我々、が表世界から隠れるように逃げたのは文明開化の頃だったらしい。
 らしい、というのは伝聞であって体験したわけでないためだ。

 人間の真似事とて時代に合わせるものである以上、散切り頭が多くなれば我々もそう真似た。
 真似た結果、皆急激な体調不良――怪奇としての存在が危うくなるほどの弱体化を起こしたという。
 それがなぜだったか我々はすぐに理解することができず、逃げ延びてからある考察がされた。

 現代的に言うなら、『自分のうちでアイデンティティが揺らぎかねないと弱る』というものだ。
 我々は自分を河童としている・・・・・のだから、皿の痕跡すらない姿になってしまってはもはや我々ではなくなってしまう。
 そういう理屈だった。