RECORD
Eno.207 曲輪木 丑緒の記録
潮にひかれつ是まで来れり/神秘と人間の関係について
「は、はは! 大仰な態度で何をするかと思えば……
『名付けの咒』とは。
意味のない治療の代償に……ただそれを弱体化させただけではないか!」
狐が笑う。
その声に呼応するように、黒い雲で形取られた尾は猛り狂い、
周囲に無秩序な破壊を振り撒いていく。
「それともよもや、もう戦わないから許してください、とでも言うつもりか?
命乞いにしては随分とお粗末だなァ、人間!」
胸に空いた大きな風穴も、狐の攻撃から俺を庇ってついた無数の傷も消えた代わりに、怪奇の姫としての身体も失ったとらは、
無力な幼児の姿となって俺の影に隠れるように立ち、きゅっと俺の白衣を掴んでいた。
俺はその頭に左手を置いてやる。
「名前を付けたんじゃない。孤立系を設定したんだよ。
こいつはもう、虎噤でも、お前らが神輿に担いだ鵺でもない。
俺の『定量性』で……そういった繋がりの全てから切り離した」
「言葉遊びに過ぎないな。それで何が変わるというのだ!」
狐が前脚を高く掲げる。背後で暴れる尾は更にその大きさを増す。
掲げた狐の脚に、雷のように爆ぜ散るエネルギーが収束してゆく。
離れた位置に立っているにも関わらず伝わってくる、強大な熱量。
あんなものが放たれたら、俺もとらも、ひとたまりもなく蒸発してしまうだろう。
けれど、俺は恐れたりしない。
その必要はない。
もう、決着はついているのだから。
「なにって……わからないのか。
黒雲はもう、鵺の制御から外れたんだぜ」
ぞぶり、という間抜けな音と共に。
激しく明滅するエネルギーが、狐の前脚ごと消失した。
狐の九本の尾のうちの一つによって、削り取られ―――
否、水に溶けでもするように、消えてなくなったのだ。
「……あ?」
狐の前脚。
その断端には黒い靄のようなものがこびりついている。
慌てて振り回してもそれは消えない。
どころか、じわじわと蝕むように拡大し、身体の方へと登ってゆく。
「なんだ、これは……」
狐が乱暴に地面を叩き、欠けた前脚を擦り付ける。
黒い靄は消えない。
擦り付けられた地面さえも削り、喰らい、溶かしてゆく。
「なんだ、これは!!」
「知らねえのかよ。
逆に聞かせてもらうが……
なんでお前はそんなもの、自分の身に取り込めると思ったんだ?」
胸をさする。
狐の使う武器で穴の開いたはずの俺の身体は、
既に黒い靄で埋められ、問題なく活動できてしまっている。
これは、そうあれと望まれたからだ。
鵺が俺の身体を埋め、生体活動を補うよう望んだために、
俺の身体と融け合い、共存しようとしている。
先程まで狐の尾が暴れなかったのは、この黒雲の力を統べる存在として、
狐どもに担ぎ上げられた鵺がいたからだ。
そういうものなのだ。
古き神秘。
より未分化な、神秘の根源に近しい性質を持つそれを、昔の人間は恐れ、名付けたのだ。
不壊の黒雲。空無辺。
彼我の境界を持たず、望みも畏れをも反映する、茫洋たる混沌。
部分的に鵺と混じり合った俺には、それがなんとなくわかる。
あの走馬灯の中で、俺はその性質をなんとなく理解させられていた。
「なんとなくの感覚の産物を、理解したとは口が裂けても言えんがね……
ただ、科学者はわからないものを、わからないままに扱うことができる。
そのために積み上げられてきたものが科学だ。
そうして人類が積んできた研鑽の、端っこに俺は立っている…………
けれど、お前はどうかな?」
「なにが……何を言ってるんだ、人間!」
狐の尾はなおも暴れ続ける。
己の尾から逃れようとその場で跳びはねた狐の胴を、暴れる黒い尾がぞぶりと削り取った。
コン! とあげられた叫び声には、恐怖が混じっている。
「己が知らぬものを、扱う術を心得ているのかという話だよ」
科学の成果だけを掠め取って、その精神を学ばなかった者。
そのザマで科学を喰らったとは……烏滸がましいにも程がある。
己の尾から逃げるべく、身体を捩る狐。
巻き起こされる破壊から逃げ続けることに成功しているそのうちに、黒く巨大な九本の狐の尾は、次第に融け合い一つとなった。
その強大な力の塊は、いつの間にか暴れることもなく、靄のように拡散してゆく。
尾という形を失ったそれは、狐の身体を覆うように広がっていった。
「コンな……コンなはずじゃ……!」
半狂乱で叫ぶ声も、黒い雲に飲み込まれて次第に薄れてゆく。
「それには限りがないらしい。それは形を持たないらしい。
夜の闇そのもの、不可知なるものへの恐怖という具現。
不壊の黒雲。空無辺。そう呼ばれていたらしい。
さて、ここで疑問が一つ」
「俺は、俺こそが、九尾の妖狐だ! 俺は、怪奇の王だぞ!」
俺は狐の叫びを無視して人差し指を立てる。
「そんなものを取り込んでしまったお前は……
そんなものに取り込まれてしまったお前は。
果たしてお前でいられるのかな?」
「コンな、俺は、おれ、は。
あれ、おれ?」
狐の声は徐々に薄れてゆき、そこに含まれる語気も、意思も、曖昧に溶けてゆく。
俺はただじっと立って、その様を眺めていた。
「おれ、って、なんだ……?」
どこにも届かぬ問いを最後に、狐は無限大に希釈され、消えてなくなった。
後にはただ、夜の闇よりも暗い、一つの黒い雲だけがそこにあった。
「さて……どうしたもんかね」
狐が消えてもなお、そこに黒い雲は鎮座している。
相手は平安の都を脅かした不壊の黒雲、その本体だ。
千年も前に、当時の武士と陰陽師が集まってなんとか追い払ったような化け物。
俺一人でどうこうできるような相手じゃあない。
すると、左手で触れていたとらの頭がぐんと持ち上がるようにして、少女の背丈にまで成長する。
橙色の髪は、目の前の黒雲と同じ深い闇色に変じ、憂いを帯びた瞳が俺を見上げていた。
「……そうだな。あれの対処は私がやろう。
私が融ければ、それで元通りだ。
あの黒雲に均一に融けてしまう前に、ここから離れることくらいはできるだろう……」
「何言ってんだお前は」
「なにって」
「お前を助けるために来たのに、そんなことさせるわけねえだろ」
「でも」
少女は困ったようにくちごもった。
いや、困ってるのは俺のほうだよ。
「……でも、今のうしおならできるでしょう、私ととらを分離することだって。
黒雲を遠くに誘導するだけならそれで十分。
それが、私にできる償いだから」
「お前もとらだろうが」
目を丸くして黙り込む少女に、俺は自分の頭をばりばりと掻いて。
それから、胸に手を当てる。
瀕死の傷を治した……
いや、傷という概念を移し替えて俺を生かしたのは、このとらなのだ。
「償うだのごめんだの。すぐそうやって自分が悪いみたいなツラをしてんじゃねえ。
お前が何か償わなきゃいけないのか知らないが……
そんなら、お前に命を救われた俺には、それを手伝う義務がある」
こいつに背負わねばならぬ咎があるならば、俺がそれを引き受けるのが筋ってもんだろ。
「でも」
それでも、揺れるとらの瞳。
……叱られるのを待っている顔だ。
いつぞやの、フレンチトーストを食べた時を思い出す。
俺は、とらの顔を覗き込んで、微笑んでみせる。
「なあ、とら。俺はそんなことでお前を、嫌いになったりしないよ」
反応は、劇的だった。
「………うー、うーーー!」
そう叫ぶやいなや、とらが急に抱きついてきた。
そのまま、俺の胸に頭をぐり、とこすりつけてくる。
……結構、これ痛いわ。
まだ、傷口に刺激があるとダメみたい。
「いた、いてえってとら。ちょっと離れ、おま!」
「それじゃあ。私に頼らないのに。あれ、どうするの」
細い腕からは信じられないくらいの力でしがみつくとらを引き剥がすと、
拗ねたように目を伏せて、小声で尋ねてくるとら。
「こうする」
とらの肩を持ったまま、俺は黒い雲に呼びかけてみる。
「あのー、そういうわけなんで、帰ってくれませんか?
こいつの面倒は俺が見るんで」
「……うそでしょ」
呆れたような口調で問うてくるとらに、俺は口を尖らせて反論する。
「んだよ。試してみるだけならタダだろ……うお」
黒雲は、まるで綿飴が水に溶けるように薄れていって、消えた。
本当に俺の言葉が通じたかのようなタイミングで。
「…………本当に、消えちゃった」
とらのあっけに取られた顔が、あんまりにも間抜けだったから、俺は思わず吹き出した。
「ふッ、はは、ははははは」
ふくれっつらになったとらが拗ねて、レッサーパンダの姿に変わり、丸まって動かなくなる。
しばらく笑って、笑って、笑い疲れて座り込んだ俺の横で、とらはまだ丸まったままだった。
あんまり動かないもんだから、俺はそれを抱きかかえて表世界へと帰ることにする。
「さて、そんじゃ……帰ってメシにしよう、とら」
「ふん!」
実際、俺はうまくいくと思っていた。
あの雲に人間への敵意があったなら、平安の都は簡単に滅んでいただろうし、
意思のないただの現象であるならば、切り取られた虎噤が千年の間反省し続けることだってありえない。
ただ、出会うべきでない隣人が、よくない形で出会ってしまっただけだったのだ。
そして千年の時を経てようやく、互いにそれを学ぶことができたんだとしたら―――
神秘と人間の関係はきっと、ここからようやく始まるのだ。
『名付けの咒』とは。
意味のない治療の代償に……ただそれを弱体化させただけではないか!」
狐が笑う。
その声に呼応するように、黒い雲で形取られた尾は猛り狂い、
周囲に無秩序な破壊を振り撒いていく。
「それともよもや、もう戦わないから許してください、とでも言うつもりか?
命乞いにしては随分とお粗末だなァ、人間!」
胸に空いた大きな風穴も、狐の攻撃から俺を庇ってついた無数の傷も消えた代わりに、怪奇の姫としての身体も失ったとらは、
無力な幼児の姿となって俺の影に隠れるように立ち、きゅっと俺の白衣を掴んでいた。
俺はその頭に左手を置いてやる。
「名前を付けたんじゃない。孤立系を設定したんだよ。
こいつはもう、虎噤でも、お前らが神輿に担いだ鵺でもない。
俺の『定量性』で……そういった繋がりの全てから切り離した」
「言葉遊びに過ぎないな。それで何が変わるというのだ!」
狐が前脚を高く掲げる。背後で暴れる尾は更にその大きさを増す。
掲げた狐の脚に、雷のように爆ぜ散るエネルギーが収束してゆく。
離れた位置に立っているにも関わらず伝わってくる、強大な熱量。
あんなものが放たれたら、俺もとらも、ひとたまりもなく蒸発してしまうだろう。
けれど、俺は恐れたりしない。
その必要はない。
もう、決着はついているのだから。
「なにって……わからないのか。
黒雲はもう、鵺の制御から外れたんだぜ」
ぞぶり、という間抜けな音と共に。
激しく明滅するエネルギーが、狐の前脚ごと消失した。
狐の九本の尾のうちの一つによって、削り取られ―――
否、水に溶けでもするように、消えてなくなったのだ。
「……あ?」
狐の前脚。
その断端には黒い靄のようなものがこびりついている。
慌てて振り回してもそれは消えない。
どころか、じわじわと蝕むように拡大し、身体の方へと登ってゆく。
「なんだ、これは……」
狐が乱暴に地面を叩き、欠けた前脚を擦り付ける。
黒い靄は消えない。
擦り付けられた地面さえも削り、喰らい、溶かしてゆく。
「なんだ、これは!!」
「知らねえのかよ。
逆に聞かせてもらうが……
なんでお前はそんなもの、自分の身に取り込めると思ったんだ?」
胸をさする。
狐の使う武器で穴の開いたはずの俺の身体は、
既に黒い靄で埋められ、問題なく活動できてしまっている。
これは、そうあれと望まれたからだ。
鵺が俺の身体を埋め、生体活動を補うよう望んだために、
俺の身体と融け合い、共存しようとしている。
先程まで狐の尾が暴れなかったのは、この黒雲の力を統べる存在として、
狐どもに担ぎ上げられた鵺がいたからだ。
そういうものなのだ。
古き神秘。
より未分化な、神秘の根源に近しい性質を持つそれを、昔の人間は恐れ、名付けたのだ。
不壊の黒雲。空無辺。
彼我の境界を持たず、望みも畏れをも反映する、茫洋たる混沌。
部分的に鵺と混じり合った俺には、それがなんとなくわかる。
あの走馬灯の中で、俺はその性質をなんとなく理解させられていた。
「なんとなくの感覚の産物を、理解したとは口が裂けても言えんがね……
ただ、科学者はわからないものを、わからないままに扱うことができる。
そのために積み上げられてきたものが科学だ。
そうして人類が積んできた研鑽の、端っこに俺は立っている…………
けれど、お前はどうかな?」
「なにが……何を言ってるんだ、人間!」
狐の尾はなおも暴れ続ける。
己の尾から逃れようとその場で跳びはねた狐の胴を、暴れる黒い尾がぞぶりと削り取った。
コン! とあげられた叫び声には、恐怖が混じっている。
「己が知らぬものを、扱う術を心得ているのかという話だよ」
科学の成果だけを掠め取って、その精神を学ばなかった者。
そのザマで科学を喰らったとは……烏滸がましいにも程がある。
己の尾から逃げるべく、身体を捩る狐。
巻き起こされる破壊から逃げ続けることに成功しているそのうちに、黒く巨大な九本の狐の尾は、次第に融け合い一つとなった。
その強大な力の塊は、いつの間にか暴れることもなく、靄のように拡散してゆく。
尾という形を失ったそれは、狐の身体を覆うように広がっていった。
「コンな……コンなはずじゃ……!」
半狂乱で叫ぶ声も、黒い雲に飲み込まれて次第に薄れてゆく。
「それには限りがないらしい。それは形を持たないらしい。
夜の闇そのもの、不可知なるものへの恐怖という具現。
不壊の黒雲。空無辺。そう呼ばれていたらしい。
さて、ここで疑問が一つ」
「俺は、俺こそが、九尾の妖狐だ! 俺は、怪奇の王だぞ!」
俺は狐の叫びを無視して人差し指を立てる。
「そんなものを取り込んでしまったお前は……
そんなものに取り込まれてしまったお前は。
果たしてお前でいられるのかな?」
「コンな、俺は、おれ、は。
あれ、おれ?」
狐の声は徐々に薄れてゆき、そこに含まれる語気も、意思も、曖昧に溶けてゆく。
俺はただじっと立って、その様を眺めていた。
「おれ、って、なんだ……?」
どこにも届かぬ問いを最後に、狐は無限大に希釈され、消えてなくなった。
後にはただ、夜の闇よりも暗い、一つの黒い雲だけがそこにあった。
「さて……どうしたもんかね」
狐が消えてもなお、そこに黒い雲は鎮座している。
相手は平安の都を脅かした不壊の黒雲、その本体だ。
千年も前に、当時の武士と陰陽師が集まってなんとか追い払ったような化け物。
俺一人でどうこうできるような相手じゃあない。
すると、左手で触れていたとらの頭がぐんと持ち上がるようにして、少女の背丈にまで成長する。
橙色の髪は、目の前の黒雲と同じ深い闇色に変じ、憂いを帯びた瞳が俺を見上げていた。
「……そうだな。あれの対処は私がやろう。
私が融ければ、それで元通りだ。
あの黒雲に均一に融けてしまう前に、ここから離れることくらいはできるだろう……」
「何言ってんだお前は」
「なにって」
「お前を助けるために来たのに、そんなことさせるわけねえだろ」
「でも」
少女は困ったようにくちごもった。
いや、困ってるのは俺のほうだよ。
「……でも、今のうしおならできるでしょう、私ととらを分離することだって。
黒雲を遠くに誘導するだけならそれで十分。
それが、私にできる償いだから」
「お前もとらだろうが」
目を丸くして黙り込む少女に、俺は自分の頭をばりばりと掻いて。
それから、胸に手を当てる。
瀕死の傷を治した……
いや、傷という概念を移し替えて俺を生かしたのは、このとらなのだ。
「償うだのごめんだの。すぐそうやって自分が悪いみたいなツラをしてんじゃねえ。
お前が何か償わなきゃいけないのか知らないが……
そんなら、お前に命を救われた俺には、それを手伝う義務がある」
こいつに背負わねばならぬ咎があるならば、俺がそれを引き受けるのが筋ってもんだろ。
「でも」
それでも、揺れるとらの瞳。
……叱られるのを待っている顔だ。
いつぞやの、フレンチトーストを食べた時を思い出す。
俺は、とらの顔を覗き込んで、微笑んでみせる。
「なあ、とら。俺はそんなことでお前を、嫌いになったりしないよ」
反応は、劇的だった。
「………うー、うーーー!」
そう叫ぶやいなや、とらが急に抱きついてきた。
そのまま、俺の胸に頭をぐり、とこすりつけてくる。
……結構、これ痛いわ。
まだ、傷口に刺激があるとダメみたい。
「いた、いてえってとら。ちょっと離れ、おま!」
「それじゃあ。私に頼らないのに。あれ、どうするの」
細い腕からは信じられないくらいの力でしがみつくとらを引き剥がすと、
拗ねたように目を伏せて、小声で尋ねてくるとら。
「こうする」
とらの肩を持ったまま、俺は黒い雲に呼びかけてみる。
「あのー、そういうわけなんで、帰ってくれませんか?
こいつの面倒は俺が見るんで」
「……うそでしょ」
呆れたような口調で問うてくるとらに、俺は口を尖らせて反論する。
「んだよ。試してみるだけならタダだろ……うお」
黒雲は、まるで綿飴が水に溶けるように薄れていって、消えた。
本当に俺の言葉が通じたかのようなタイミングで。
「…………本当に、消えちゃった」
とらのあっけに取られた顔が、あんまりにも間抜けだったから、俺は思わず吹き出した。
「ふッ、はは、ははははは」
ふくれっつらになったとらが拗ねて、レッサーパンダの姿に変わり、丸まって動かなくなる。
しばらく笑って、笑って、笑い疲れて座り込んだ俺の横で、とらはまだ丸まったままだった。
あんまり動かないもんだから、俺はそれを抱きかかえて表世界へと帰ることにする。
「さて、そんじゃ……帰ってメシにしよう、とら」
「ふん!」
実際、俺はうまくいくと思っていた。
あの雲に人間への敵意があったなら、平安の都は簡単に滅んでいただろうし、
意思のないただの現象であるならば、切り取られた虎噤が千年の間反省し続けることだってありえない。
ただ、出会うべきでない隣人が、よくない形で出会ってしまっただけだったのだ。
そして千年の時を経てようやく、互いにそれを学ぶことができたんだとしたら―――
神秘と人間の関係はきっと、ここからようやく始まるのだ。