RECORD

Eno.232 月影誠の記録

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依頼を終わらせようと裏世界に来ていた。
人の姿をするものを一人で狩っていたものだから、随分と高揚感に酔って楽しんでいた。
人の姿をした怪異は、やはり最悪最高の気持ちになる。
この神秘が発露したあの感触を嫌でも思い出す。
首から血を流して苦しむ、父の姿と重なって。

嬉しつらくて、楽しこわくて、殺し死にたくなる。



そうしたらアヤメがやってきて、依頼を手伝ってくれた。
その後は表世界に用事があるからと、湖畔まで送ることになった。
湖畔には水質調査の依頼があるから、それをこなすのだろうな、と。


―― 本当に、裏の世界の自分の思考回路は浅はかで困る。
この状態で表に帰れば、どんな姿を晒すか分かっていただろうに。


思考の差が気持ち悪い。ぐるぐると眩暈がして吐き気がする。
世界が揺れる。生き物の気配がする。
獲物の香がする。生が脈打つ音が聞こえる。
さぞかしその花束をぶちまけたら、綺麗な花びらを散らしてくれるのだろうな。

昂った狩猟本能ウルフズ・ハイが引かない。
触れられれば生を実感して、殺したくなる。
目の前にいるものが獲物に見えて。
ガリ、と手を噛んで。衝動を殺そうとして。

離れてくれれば。何もいないところで休めば、収まるのに。
優しい人だと信じているから離れない、だなんて。

一体俺の何を見て、そんなことを言ったのか。
今ここで俺が何をしようとしているのか、何を考えているのかも。
察しておきながら、何をもってこちらのことを信頼しているのか。

目の前にいる人間は、あなたを殺そうと考えているのに。




衝動に侵されながら聞いた話は、随分と惨い話だった。
異世界からやってきた、それもにわかに信じられないが真実なのだろう。
普段の振る舞いからは想像もできないほどの、酷い過去話。
思わず抱き締めて、泣いて、怒りを発露して。
そんなことをしたところで、何の慰めにもならないし代わりにもならない。
自分はどうしようもなく無力で、偽善的な優しさを示すことしかできなくて。

悔しいな。
「何で教えてくれなかったんだ」って言ったけれど、「教えてくれたら何かが変わったか?」と問われると。
何も変える力を持っていない。
ただ……彼女の復讐が無事に果たされて、強い願いが叶えられることを。
ここから、祈ることしかできないのだから。

……だから。
この先に離別があるのなら。彼女が元の世界に戻るのならば。
信じて待って。戻ってきたらただいまと伝えて。
道に迷ったそのときは。迎えに行って、然るべき場所へと導こう。










同時に。凄く安心していることがある。
人を殺すことに何の躊躇いもないのだと。
人を斬っても何も痛みがないのなら。


「……俺が本能に飲まれて堕ちたら、そのときは。
 アヤメもまた、ちゃんと殺して葬ってくれるのだろうな」



―― それは一つの、待望のフィナーレだろう。