RECORD

Eno.568 伊達白金の記録

伊達白金とふなまつりビギンズ

 

「……どっかおかしくないか?」


伊達白金だてぷらちなむは、相当に緊張していた。

今日はふなまつり。北摩テクノポリス西部はヤッホー横丁に位置する河原神社の縁日だ。
相棒たる天月からの誘いとあらば断る謂れもあろうはずがない。
SURFの申し出に脊髄反射で応じ、予定をとりつけて本日に至る。
モノレールの西部駅で待ち合わせ、現地に向かう手筈だ。

なにゆえ伊達白金だてぷらちなむは、これほど緊張しているのか。
まず身なりがいつもと違う。
着慣れない甚平和装もそうだし、今日は眼鏡とカラコンも外した。
その服装で臨むこと決めたのは他ならない自分自身ではあるが、
涼し気で軽い着こなしはいつもの制服と比べたら心許ない。
眼鏡は置いてこなくてもよかったんじゃないか?

時は遡り、数日前。
待ち合わせの返信をしたあとではたと気づく。
――流石に、他のメンバーはいるのでは?
寮にもクラスにも共通の知り合いは大勢いるのだ。天月は人あたりもよい。
この手の催しは引く手数多なのでは?
グループで遊びに行くのに自分ダテプラだけ除けたらむしろ不自然だから誘ったとか、そういうアレでは?
なんか、その、肝心なことではあるのだが、聞けなかった。聞いたらダメな気がした。

他のメンバーがいるならまぁ、それはそれでいい。ちょっと肩透かしだが。
同行のハードルは大きく下がる。
いつものようにくだらない会話で程々に場を沸かせる自信がある。
クラスメイトや寮友と親交を深めるのもやぶさかではない。

問題は(当初思った通り)相棒と二人きりの場合である。
男女が待ち合わせして……というのは、よく考えたら世間で言うところのデートじゃん
いやいや相棒とはそういう浮ついたのじゃなくてもっとこう、
クールでシステマティックでスパイシーなカンジでいやでもその関係は表では内密なんだから
傍から見たらもうデートじゃん。10人中10人がそう思うじゃん。
むしろ怪奇が表に出てないかとか見張る影の番人として
祭りの平和を守る心算つもりならこんな軽装はちょっとナメすぎじゃん。
そもそも天月が自分を選ぶ意味を掴みかねている。
俺は天月の相棒であって、決して恋人ではない。
※少なくとも今のところは。そういう仲になりたくないかと言われるとグラグラに揺らぐが。

俺は。伊達白金だてぷらちなむは。今日どのように振る舞うべきなのか。

早めに寮を出かけて、西部駅にたどり着き、暫く時間を潰し、
甚平の上に羽織ってきたパーカーと荷物をまとめて駅のコインロッカーに突っ込むまで。
そのようなまとまりのないモヤモヤとした葛藤を繰り返し、結局結論は出なかった。
ロッカースペースの天井を仰ぐ。くそぉ、情ねぇぇ――――――!

七転八倒したい気分だが駅のトイレの洗面台で髪をなおす程度で留めた。
一度深呼吸して平静を取り戻す。
あれもこれも完璧にこなそうとして、中途半端になるのが一番ダサい。
こういうときは、優先順位を決めるに限る。
今日は神社のお祭り。それ以上でもそれ以下でもない。
辛気臭い顔で臨むのは、祀られた神様に失礼だろう。
天月がどのような真意であったのかは置いといて、
SURFでの打ち合わせで取り決めた出店を攻略することに集中しよう。
その他のプラスアルファはもう、アドリブだ。なるようになれこんちくしょーめ。

ハッパをかけるためにミントタブレットを数粒いっぺんに噛み砕き、
暴力的な清涼感に悶絶したのち、鏡に映る伊達白金だてぷらちなむに不敵な笑みを浮かべる。
お、なんかカッコいいんじゃないか?いける気がしてきた。俺単純だな。
じき天月との待ち合わせの時間である。戦いが始まる。


「――よ、お待たせ!」