RECORD
Eno.442 テレンス・アトローパの記録
【あの日】
────────
【注意】
ショッキングなシーンを含みます。直接的な描写はしておりませんが、苦手な方は閲覧を控えることを推奨します。
────────
走る。走る。走る。
異常なまでに紅い夕日に目が眩む。怪物の声が鼓膜を素通りする。足がもつれて、それでも走り続ける。
何の変哲もない、いつも通りの一日のはずだった。
強いて言うなら、その日は高校の三者面談の帰りで、一緒に面談を受けた父と買い物帰りの母と、家族3人で帰路に着いていた。
子供にとっての親というものは、様々な実態があれど、己を庇護してくれる偉大な象徴的存在だ。
それは自分にとっても例外ではなくて、自分の目に映る“ごく普通”の両親は、無条件の好意と尊敬の対象であった。
そんな命が、目の前で、あっけなく散った。
一瞬の出来事だった。怪物が腕を一振りした時には、既に両親の身体は真っ二つに切り裂かれていた。
世界が真っ赤に染まって、突然の感情に脳の処理が追いつかなくて、次は我が身、と、怪物の凶刃にかけられそうになった時。何処からともなく飛んできた弾丸が怪物の脳天を貫き、自分は一命を取り留めた。
アザーサイドコロニストと名乗った迎撃手達が自分の手当をしてくれている間もずっと、もう動かなくなった「それ」に視線を奪われていた。
処置が終わり、先の襲撃で生き残った自分は彼らの保護下に置かれるようで。ひとまず拠点へ護送するという職員達に言われるがまま着いて行った。
「裏世界」「怪奇」「神秘」
彼らの会話に耳を傾けると、そんな聞き馴染みのない単語群がいくつも飛び交っていた。
それについて尋ねようと口を開いた時、職員の1人が自分を向き直し、こう言ったのだ。
「ご両親のことは災難でした。しかし、未だ神秘に触れていない貴方には未来がある。
無知とは不可逆なもので、健全な未来を選ぶことができるのは今だけなのです。
元の世界に帰ったら、どうか今日のことは忘れ、全て悪い夢だったことにしてください」
……言っている意味がわからなかった。
帰る?忘れる?無かったことにする?
全てを、ここに置き去って?
その言葉の意味を理解した時、もう身体は動き出していた。
制止の声を振り切って、自分でも驚く程のパワーで駆けた。
明確な行き先もなく、土地勘などあるわけもない、やぶれかぶれの逃走劇。
忘れるなんて、見なかったことにするなんて。
そんなこと、できるわけがない!!
今脳内を支配する感情をそのままに、どうしてのうのうと帰ることができよう!?
この感情、この想い!忘れてやるものか、夢にしてやるものか!
この、この………
この溢れ出る興奮を!!!

あの怪物は何なんだ?神が時計を狂わせたようなこの空模様は一体?現地人たる彼らが使用したあの武器だって、現代の科学では証明できないものだった!
疑問は大雨の中の濁流のように、溢れ出てきては止まらない。
鮮血が飛び散り頬を染めた時、自分の中の“何か”が壊れた気がした。
叩き壊された扉の先で出会った、強大な力。そして、その未知なる可能性に、一目惚れをしてしまったのだ。
人よりも優れた頭脳を持ち、世界の全てを知っているつもりだった自分にとって、この出会いがどれほど衝撃的だったか。
知らない、知りたい、この世界の真髄を!!
初めて感じるこの感情、幸福。捨て去るなんてあり得ない!
繋ぎ止めるんだ。この世界と自分を、この感情と自分の身体を。
例え無理矢理に引き離されても、記憶を消されても、決して消えない証を残すために。
深く、深く、形として、傷として、
この身体に、刻みつけて────!!

ぐちゃ。
【注意】
ショッキングなシーンを含みます。直接的な描写はしておりませんが、苦手な方は閲覧を控えることを推奨します。
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走る。走る。走る。
異常なまでに紅い夕日に目が眩む。怪物の声が鼓膜を素通りする。足がもつれて、それでも走り続ける。
何の変哲もない、いつも通りの一日のはずだった。
強いて言うなら、その日は高校の三者面談の帰りで、一緒に面談を受けた父と買い物帰りの母と、家族3人で帰路に着いていた。
子供にとっての親というものは、様々な実態があれど、己を庇護してくれる偉大な象徴的存在だ。
それは自分にとっても例外ではなくて、自分の目に映る“ごく普通”の両親は、無条件の好意と尊敬の対象であった。
そんな命が、目の前で、あっけなく散った。
一瞬の出来事だった。怪物が腕を一振りした時には、既に両親の身体は真っ二つに切り裂かれていた。
世界が真っ赤に染まって、突然の感情に脳の処理が追いつかなくて、次は我が身、と、怪物の凶刃にかけられそうになった時。何処からともなく飛んできた弾丸が怪物の脳天を貫き、自分は一命を取り留めた。
アザーサイドコロニストと名乗った迎撃手達が自分の手当をしてくれている間もずっと、もう動かなくなった「それ」に視線を奪われていた。
処置が終わり、先の襲撃で生き残った自分は彼らの保護下に置かれるようで。ひとまず拠点へ護送するという職員達に言われるがまま着いて行った。
「裏世界」「怪奇」「神秘」
彼らの会話に耳を傾けると、そんな聞き馴染みのない単語群がいくつも飛び交っていた。
それについて尋ねようと口を開いた時、職員の1人が自分を向き直し、こう言ったのだ。
「ご両親のことは災難でした。しかし、未だ神秘に触れていない貴方には未来がある。
無知とは不可逆なもので、健全な未来を選ぶことができるのは今だけなのです。
元の世界に帰ったら、どうか今日のことは忘れ、全て悪い夢だったことにしてください」
……言っている意味がわからなかった。
帰る?忘れる?無かったことにする?
全てを、ここに置き去って?
その言葉の意味を理解した時、もう身体は動き出していた。
制止の声を振り切って、自分でも驚く程のパワーで駆けた。
明確な行き先もなく、土地勘などあるわけもない、やぶれかぶれの逃走劇。
忘れるなんて、見なかったことにするなんて。
そんなこと、できるわけがない!!
今脳内を支配する感情をそのままに、どうしてのうのうと帰ることができよう!?
この感情、この想い!忘れてやるものか、夢にしてやるものか!
この、この………
この溢れ出る興奮を!!!

あの怪物は何なんだ?神が時計を狂わせたようなこの空模様は一体?現地人たる彼らが使用したあの武器だって、現代の科学では証明できないものだった!
疑問は大雨の中の濁流のように、溢れ出てきては止まらない。
鮮血が飛び散り頬を染めた時、自分の中の“何か”が壊れた気がした。
叩き壊された扉の先で出会った、強大な力。そして、その未知なる可能性に、一目惚れをしてしまったのだ。
人よりも優れた頭脳を持ち、世界の全てを知っているつもりだった自分にとって、この出会いがどれほど衝撃的だったか。
知らない、知りたい、この世界の真髄を!!
初めて感じるこの感情、幸福。捨て去るなんてあり得ない!
繋ぎ止めるんだ。この世界と自分を、この感情と自分の身体を。
例え無理矢理に引き離されても、記憶を消されても、決して消えない証を残すために。
深く、深く、形として、傷として、
この身体に、刻みつけて────!!

ぐちゃ。