RECORD

Eno.69 牙ヶ崎 剣の記録

⑤日蝕


『――あぁ、都市伝説ね ここいらじゃ専ら、【外神様】が有名だよ』



都会の少し外れ、旧牙ヶ崎家のある村での言い伝え。
『外神様と目を合わせたら呪われる』なんて、腐るほどよくあるアヤカシの噂だ

曰く、外神様とは『コトワリ』から外れてしまった神とのこと
信仰を失ったとはいえ、神は神 外神様と目が合えば憑りつかれ
その依り代となる代わりに『願い』を叶えてくれるそうな。

しかしながらその願いの叶え方は醜悪だ
必ず依り代の『願わぬやり方』で叶えると、聞き及ぶ
そうして最後はアヤカシか、神のナレハテになってしまう
まぁ、ただの人々を怖がらせるための作り話だが……

言霊も言い続ければ嘘を真実に変えてしまう、なんて よく言うわけさ。



―――私は、あの日の事をよく覚えていない
――すごい大雨が降り注いでいたことと
―強い強い衝撃で体を打ち付けた
それだけ、たったそれだけ

アタシ・・・、アタシは――牙ヶ崎剣」

私がお姉ちゃんになると決めたあの日から
私は思い出の中のお姉ちゃんをとにかく模倣した。

お姉ちゃんは、挨拶をしない
お姉ちゃんは、身振りで話す
お姉ちゃんは、ピアスが好き
お姉ちゃんは、つぶあんが好き
お姉ちゃんは、洋楽が好き
お姉ちゃんは、よく学校をサボる
お姉ちゃんは、暴力を厭わない
お姉ちゃんは、ちょっぴり口が悪い
お姉ちゃんは―……

「あ、あれ なんだろう……」



目が、霞む 目の奥が痛い
感じたことのない不気味な感覚に、思考が遮られる。
気になって鏡を見てみると、私の瞳は真っ黒に染まっていた
まるで全部が、瞳孔に覆われてしまったかのように。

「……なに、これ」

「なんで……?」

何かが瞳から浸透していくような……
それに抗うように体が痛みを訴える。
奇妙だ 病気かもしれないけれど、そうではないと感覚がその考えを拒絶する
本能が、そうではないと。

「……」

そういえば

そういえばあの日

あの時 私は何かを見た

いや、きっと皆が見ていた

雨の中、車の前に立つ 異形の姿を

一つの瞳がギョロリとこちらを 見据えていたのを

お父さんは、其れを避けようとして……

「……」

どうして今になって思いだしたのだろう
まるで其れが自らの存在を誇示するかのように、鮮明に異形の姿を思い出す。

私の中の何かが、私を変えようとして動き始めたのだろうか?
私の願いを、叶えるために……?

……噂話はよく思い出せないけれど
確か願い事を叶えてくれるんだっけ
神頼みだなんて馬鹿らしいけど、私にとっては
この現実がなにより馬鹿らしい だから

「ああ、神様 ……私の中にいるんだよね
 なら 私のお願い事 聞いてくれるんでしょ
 ねぇ神様 ……私ね、私を、私を……」

私が お姉ちゃんになるために
私という個を 確実に消すために



どうか、殺してください