RECORD
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「いや……まあ……別に話せないわけじゃないんだけど……」
楽しい話じゃないから話しづらいだけ。
「クソガキ時代はふつーに兄貴のこと好きだったんだけど。
時々英語でしゃべってきたんだよね。
それでどういう意味かを聞いたら、
「大切な弟だ」だとか「大好きだ」だとかって教えてもらって。
それを純粋に信じていた俺は、その通りに受け取ってたんだけど。
実はめちゃくちゃ罵倒してたってオチ」
極力軽く聞こえるように言ったつもり。
あまり重く聞こえなければいいな、と。
「まあ、こういう大したことない話だよ」
今日、英語が嫌いな理由をクラスで話した。
そこまで気にするような内容でもない、と個人的には思っている。
というのも、俺は現時点で兄貴のことを心底嫌っており、決別している。つもりだ。
だから過去の出来事としてきっぱりと踏ん切りがついているはずで。
今更思い悩むものでもない昔話だ。
されど、幼少期についた傷というのはなかなか癒えないらしい。
今だに英語を理解しようとするとどうしても拒絶反応が出る。
……どうしようもなく引きずっている。
昔は兄のことが好きだった。賢くて何でも分かる、自慢の兄だと思った。
兄も自分の事を大切にしてくれていると、信じて疑わなかった。
兄はずっとずっと勉強漬けで、遊んだことは一度もなかった。
喧嘩らしい喧嘩をしたこともない。
それらは全て、兄が勉強熱心で大人な人だからだと思っていた。

真
「―― I hate you because you are big wuss.」

誠
「わ~~~!! なんて言うとんのか全く分からん!!
なんてなんて? それどういう意味なん?」

真
「……これはなあ」

真
「あなたが大好きです、って意味や」

誠
「そうなんや! 俺も兄ちゃんのこと大好きや!
ひみつの合言葉って感じでかっこいい~~~!!」

誠
「せやから俺も頑張って覚えるな!
兄ちゃんが教えてくれた英語、ものにしたるから!」

真
「期待はしとらんけど」

真
「……まあ、頑張ったらええんちゃうか?」

誠
「おうっ! 俺も兄貴と内緒話したいから頑張るわ!」

誠
「なっ、なぁ兄ちゃん。
せ……先生に、聞いたんやけど……」

誠
「う……嘘、やったん? 大好きやって、意味と……ちゃうん?
俺のこと……ずっと、アホで嫌いや言うとったん?」

真
「……あ? 俺が嘘ついとったって?」

真
「…………ハッ」

真
「今頃気付いたんかクソガキ。
俺は昔っからこんな出来損ないを弟やと思たことないわ」

真
「頭悪いと騙されとることも分からんから可哀想やなぁ」

誠
「……―― Get the f■■k out.」
