RECORD
Eno.113 松林武の記録
この不快感の正体がいまいち掴めない。
思った以上に身体が緊張していた、のは分かる。
眩暈と吐き気。喉の奥がざらついて、掌がずっと冷たいままだ。
何もかも拒絶したいような、そんな気持ち。
︙
カレントコーポレーションからずっと前から来ていた依頼をよく見たら、
相手が“物の怪奇”だというのを見て、物だったらまだ、どうにかできるかとも知れないと思った。
精密機器操作実習のガイダンスを受け、そのまま学科を受講して、
半分ほど興奮混じりであったのだろうとも思う。
対面した敵は大した事無い気がして、
けれどもアレに対して引き鉄を引くのもなんだか妙な気がして、
半ば惰性で受けていた都市環境トラバース論の話を思い出した。
︙
ポケットに入っていた加熱式たばこを手に取って、
スティックを差し込んで、神秘術のひとつを意識しながら吸った。
……どうも、それで効果があるらしい。
だが、加害したという感触は、なかった。
まるで遠くから、画面越しに何かを操作しているような
どこか、現実感の薄い行為だった。
それでも、どこかで確かに“自分の手で”なされた、という事実は残っていて。
……匿名掲示板に愚痴を吐く時に、どことなく似ていたかも知れない。
良くない方法で優位に立ったような、そんな、後ろ暗い感覚。
快楽、というと言い過ぎかもしれない。けど、似た何か。
それを“思い出してしまった”ような罪悪感があるのかもしれない。
自分の中に、確かに“そういう感覚”があるということ自体が、嫌だった。
︙
︙
それで、彼方からの攻撃に対して思った事があまり、なくて。
そりゃパチパチと礫のようにぶつかって来るピースは痛かったけれども、
どこか“どうでもいい”という感情があった。
むしろ、大義名分を得たような、そんな心地すら。
“手を出して来た”と言う事は“手を出していいのだ”、と、いう、感覚、というか。
もう一度攻撃されたら多分、切れるなと、思うぐらいに張り詰めた感覚があった。
何か、ぐっと体の奥で熱が渦を巻いていた。
これは、切らない方がいい。
切らない方がいい感覚だ。
︙
────ずっと、害意が這いずっていることを、
昨今改めて自覚させられている。自分の中にそれはずっと生きている。
ずっとそこにあることを、見ないようにしていたのを感じさせられている。
ポケットにねじ込んだままだったビームピストルを机上に置いて、
布団に潜りこんではそのまま、自然と身体が小さく丸まった。
眠気はなかなか来なかった。
![]()
![]()
![]()
6/9
この不快感の正体がいまいち掴めない。
思った以上に身体が緊張していた、のは分かる。
眩暈と吐き気。喉の奥がざらついて、掌がずっと冷たいままだ。
何もかも拒絶したいような、そんな気持ち。
「………」
やって来ては、物陰に。
ポケットから拳銃型のそれを取り出して、
その辺りに浮いているモノたちをじっと見る。
カレントコーポレーションの依頼にあったものたち、だろうが
生き物らしくないというだけで、存外、抵抗感がない気がした。
……いや引き金を引くのは気持ち抵抗があるな。
パズルとかスピナーに対して銃撃つの、なんか妙だし。
カレントコーポレーションからずっと前から来ていた依頼をよく見たら、
相手が“物の怪奇”だというのを見て、物だったらまだ、どうにかできるかとも知れないと思った。
精密機器操作実習のガイダンスを受け、そのまま学科を受講して、
半分ほど興奮混じりであったのだろうとも思う。
対面した敵は大した事無い気がして、
けれどもアレに対して引き鉄を引くのもなんだか妙な気がして、
半ば惰性で受けていた都市環境トラバース論の話を思い出した。
手に取ったのは馴染みの加熱式タバコ。
都市環境トラバース論の講義を聴いて、
此れに落とし込めるかと思っていたものである。
あちらに気付かれる前に、それで煙を撒いて。
……効いている様子だな、と、どこか遠くで思っていた。
ポケットに入っていた加熱式たばこを手に取って、
スティックを差し込んで、神秘術のひとつを意識しながら吸った。
……どうも、それで効果があるらしい。
だが、加害したという感触は、なかった。
まるで遠くから、画面越しに何かを操作しているような
どこか、現実感の薄い行為だった。
それでも、どこかで確かに“自分の手で”なされた、という事実は残っていて。
……匿名掲示板に愚痴を吐く時に、どことなく似ていたかも知れない。
良くない方法で優位に立ったような、そんな、後ろ暗い感覚。
快楽、というと言い過ぎかもしれない。けど、似た何か。
それを“思い出してしまった”ような罪悪感があるのかもしれない。
自分の中に、確かに“そういう感覚”があるということ自体が、嫌だった。
「うお」
とやってればまあ気付かれるのはさもありなん。
逃げ……るか少し悩んだが、
こんなんに小突かれるぐらい別によくないか?の気持ちが湧いている。
「……」
パズルがぺちぺち殴って来るの、思った以上に痛くはあるが
正直大したものではないな。
ただ、すっと、頭の後ろの方が冷めるような心地がして、
張り詰めた糸を鳴らされたような感覚がした。
それで、彼方からの攻撃に対して思った事があまり、なくて。
そりゃパチパチと礫のようにぶつかって来るピースは痛かったけれども、
どこか“どうでもいい”という感情があった。
むしろ、大義名分を得たような、そんな心地すら。
“手を出して来た”と言う事は“手を出していいのだ”、と、いう、感覚、というか。
もう一度攻撃されたら多分、切れるなと、思うぐらいに張り詰めた感覚があった。
何か、ぐっと体の奥で熱が渦を巻いていた。
これは、切らない方がいい。
切らない方がいい感覚だ。
で、多分これ以上はあんまよくないな。
必要量は倒したから、長い息をじっと吐いて。
それから一目散に去って行く。
────ずっと、害意が這いずっていることを、
昨今改めて自覚させられている。自分の中にそれはずっと生きている。
ずっとそこにあることを、見ないようにしていたのを感じさせられている。
ポケットにねじ込んだままだったビームピストルを机上に置いて、
布団に潜りこんではそのまま、自然と身体が小さく丸まった。
眠気はなかなか来なかった。
──わたしは自分のしていることが、わからない。
なぜなら、わたしは自分の欲する事は行わず、かえって自分の憎む事をしているからである。
もし、欲しないことをしているとすれば、それをしているのは、もはやわたしではなく、わたしの内に宿っている罪である。
わたし自身は、心では神の律法に仕えているが、肉では罪の律法に仕えているのである。