RECORD

Eno.166 結祈伽羅の記録

金毛3

結祈の一族にまれに生まれる金色の髪の男子。
……僕らは、共通の記憶を持っている。

それはおおよそ500年前、怪奇がまだ怪異と呼ばれていた頃の記憶だ。
ひとりの人間のうつけ者と呼ばれる王が小さな島国を統一しようと戦っていた時代の話。

僕らは個体の名前もなく、ただそう呼ばれる怪異として3匹で森に棲んでいた。

「君たちは鎌鼬…だよね?……可哀想に」



その頃は怪異なんてその辺りに沢山居たし縄張りを争う事すらあった。
しかし、人や動物とは違う僕らの縄張り争いは存在を喰い合う事で行われる。
そうして僕らはわけのわからない影のような怪異に二番目が食い破られたその時、僕らの前にその人は現れた。

さらさらと流れる美しい黒髪に、女性と見間違うような白い肌。
烏帽子をかぶり白い鶴模様の狩衣を着たその人間は影のような怪異を一瞬で打ち払うと僕らの方へやってきた。
真っ先に怪我をして倒れていた一番目──……僕を優しく抱き上げた腕の暖かさは今でも忘れる事はできない。

「ついておいで鎌鼬の子。消えてしまわない様に君達に名をあげる」



そのまま僕らは青年の館で飼われることになった。
それは獣として、そしてヒトとして。

鎌鼬は三位一体。
本来なら真ん中が食い破られた時点で僕らはもう消えてゆく存在なのだ。
しかし、その人の付けた名は僕らを個として存在させ続けた。

「君は日々呼」



僕は日々呼という名を与えられた。

「こっちの子は夜呼」



三番目は夜呼と名付けられた。

「私の名前は荒木だよ、神主の荒木鯨あらきいさな



人懐こい笑顔で、その人はそういった。
自分が入ることで3体のバランスになる、しばらくは一緒に居ようという提案を僕らは受け入れた。
美しい人だった、優しい手だった。
僕らはすぐに荒木様を好きになった。

彼は僕らに人型になる術を教えた。
神主とは言っていたがその術は今思うに陰陽道に近いもののように思える。
……山伏の術も混ざっていたか、薄れた記憶ではあまりにも特定が難しい。

僕は兄で、夜呼は妹。
そう言う子供として荒木様に仕えた。
どこへ行くにも一緒においてくれた。
獣ではない人の理を覚えた。
獣ではできない遊びも覚えた。
獣じゃない愛し方も覚えた。

それはとても、幸せな日々だった。

「そろそろ、君たちは人として生きて行ける。僕の役目は終わりだよ」



だから、荒木様がそういった事は僕には意味が分からなくて。

「僕は戦に赴かないと……軍師の一人として殿をお守りしなければ」

「そこに君を巻き込みたくない、君は人を■せないだろう?」

「鎌鼬の転ばせはそういう子じゃないものね」



連れてゆけないから、お別れをと荒木様は言う。

「君の金色の毛を赤く染めさせたくない」



そう言って額に落とされる口付けはひどく傷んだ。
どうかこの場所が痕になればいいと願う程に愛おしかった、それが最後の触れ合いだった。

荒木様の旅立ちを見送るしかなくて彼が旅立った後は一日泣いたっけな。
そういった事はどうしても明確に覚えている。

これが僕らに残る金毛の記憶。
鎌鼬の一番目として生まれた日々呼の記憶。


僕は館に残された。



そう僕は残されたのだ。


妹の姿は館にはなく、他に彼に仕えた人間に聞けば夜呼は戦に連れて行かれたのだという。
それでも、荒木様の帰りを待った。
戦が終われば必ず戻ってきてくださると他の人間と共に館を守った。

5年だったか10年だったか?年月はもうわからないけれど。
戦から戻ってきたものは

中身のない白イタチの皮と
妹と荒木様が仕えた殿の間にできた子供三人と

荒木様が殿を裏切って、敵側に寝返ったとの報告だった。

「……母は──結祈家当主は、荒木を追って倒されました」


「殿は怪異との間にできた僕らを子とはお認めになられないそうですがその代わり……この館を賜る事になりました」

「以降、我らは結祈の子として殿にお仕えせよとの事です」



「母が亡くなった今、結祈家当主は貴方様となります。日々呼様、ご指示を」



それが結祈の始まり。
僕らの始まり。

選ばれた君と、選ばれなかった金毛の因縁のはじまり。


なぁ、夜呼。

どうして君ばかりが選ばれる?