RECORD
6. 雲を掴むような話
1. そう、マグカップの持ち手とか - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=602
2. 優しい言い回し + 直接言っちゃう優しさ - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=1192
3. はじめてのおつかい - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=2335
4. 折り鶴を見せてくる子供みたいな顔 - https://wdrb.work/otherside/record.php?id=2461
5. 魔法使いたちの口論 https://wdrb.work/otherside/record.php?id=2691
……
……………
本当に悲しい出来事があって泣いていた時、
窓の外に見える雲が自分とは関係ない速度で動いている事に気がついたことがある。

(雲が流れていく。)
湖のほとりで、棚町ミヲは空を見ている。
バカみたいな、完全に他人事みたいな青空である。
……あれは、小学生のころだったはずだ。
今となっては、何が悲しかったのか覚えていない。
覚えているのは、雲を見た時に覚えた奇妙な距離。
本物の感情を抱えている間、世界と自分の間には無限の距離がある。
誰も自分をわかってはくれないし、世界はそれとは関係なく回っていく。
記憶の喪失処理の準備ができた。明日だ。どうする。
わかった。3日までなら誤魔化してやる。だがそれがリミットだ。
コイントスでもなんでもいいから、決めてこい。
(なんで怖いんだろう。
異常なものを失って正常になるってだけなのに。)
(……じゃあ、私はどうなりたいわけ?)
さみしい。
さみしいから、誰かのことを考えてみる。
…
……
僕は人の歩みや考えを、未来という未知に進む姿を好んでいる。
だから、それを……より自由に出来るよう応援するのが半分かも。

(……どちらかといえば、おべっかは嫌いだ。無責任だから。)
(私がヲグさんのことをわかりたいのは、
あのひとの言葉はそうじゃないと思ってしまったから。)
(依存したり、ダメになるほど縋るのはきっと誰も望まないから、
ヲグさんについてもっとわかりたい。都合いいように作り変えたくない。
ヲグさんの言葉のまま、ヲグさんの意図のまま私の心に置いておきたい。)
今の表世界って基本的には『否定』で出来てるでしょ。
法律もそう、やった方がいいことではなく、やってはいけないことで縛っている。
それがルール。そこから考えを広げられるように、手助けしたいって意図だね。
(……私が否定しているものがあるとすればなんだろう。)
(ヲグさんの言葉を借りて肯定できるものがあるとすれば、
それってなんだろう?)
…
……
「そう、対話を繰り返すことで互いの誤差は少しずつ埋まっていく。
けど一方で、埋めがたい断絶も顕在化する。
その時──互いの言語が違っていたものである、と気づく。
決して同じものにはならない」
「それは決して悪いことではないわ。そういうものだから」

(今ならヌヴェルさんの言う事がもっとわかる。
その断絶は、きっと悪いことじゃない。)
(私とヌヴェルさんの間にもきっと、いくつもの大きな断絶がある。
言葉や時間で埋められるものじゃない、大きなものが。
……今では、同じ場所と同じぐらい、断絶を見つけたいとすら思う。)
(埋めがたい断絶を数える事で、先輩に近づけると思うのは、矛盾だろうか?)
それで……
本当に知りたい?
「知りたい。」
(あなたの中に流れているものが、私の中にも欲しい。
あなたみたいに強くありたいって思う。)
…
……
……。……少なくとも、会長は。
自分が中間だ、って思ってるってことはさ。
選びたいか、選びたくないと思ってる……それって意志でしょ。

(大人はみんな私の事を買いかぶってるし、過剰だと思えるほど心配してくれる。
私はそんなに立派じゃないからこそ、失敗したときに自分で責任を取ってみたいのに。)
「……私、ひょっとして見てて心配ですか?」
………うーん………。……
ちょっと。
(………………なんで心配してくれるんだろう。
私、何を、大人に期待されてるんだろう。)
「……そうじゃないとしたら?」
(……この心配が、期待じゃないとしたら……
私はちょっとだけ、子供のふりをしてもいいのかな。)
…
……
僕たちはきっと、自分が思うより多くのことをできます。
(……できてしまっても、いい?)
(……ずっと……そう言いたかった気もする。)

手はどんどん先に伸びる。
(本当にそれは、選んでもいい選択肢なのかな。)
そうしてみたいという衝動が、ずっと存在していたことを認めてみる。
(……もし、願ったものすべて、思い通りに選べるのなら。)
(自分にある力の使い方を、信じてみてもいいのなら。)
「何が自分で、なにがそうではないのか、全て自分が選べるのなら。」
棚町ミヲは、流れる雲を指でそっと押してみた。
するとその雲は、ほんのわずかだけ、崩れるように形を変える。
────そんなこと、していいんだっけ。
「それを、選んでみたい。」
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今回の要約:
・棚町ミヲは、人の言葉を借りて自分を肯定することができる、かも?
・棚町ミヲは、憧れた人から感じる強さを自分の中にも持ってみたい、かも?
・棚町ミヲは、大人の言うことを子供のふりして信じていいの、かも?
・棚町ミヲは、自分ができないと思っていた事でも選ぶことができる、かも?
・棚町ミヲには、ずっとどこかで押し殺していた選択肢がある。
・選択肢は、選ぶことでのみ現実になる。