RECORD

Eno.281 紀良邦 翔雄の記録

6番目の

夕闇ゆうえんちにて起こった出来事を、
自室にて何枚かのレポート用紙にまとめたあと、
ノートPCを置いたデスクの前でトビオはため息をつく。

レポートに集中するため、室内の灯りは落としてあり、
デスクランプだけが机の上を照らしていた。

白ではなくややオレンジがかった灯り、
その明かりに照らされながらまとめおいたレポートを、
もう一度頭から読み直す。

単純に誤字脱字がないかどうか。
時系列の順番が間違っていないか。
主観ではなく客観性がある内容か。

一通り読み直してみるものの、
いまのところは問題点が見当たらなかった。

だが何度読み直しても、引っかかってしまう。
『6番目の"トビオ"」なる単語。

なぜ、夕闇ゆうえんちで手帳が落ちていたのか。
なぜ、俺は手帳を見て頭痛に襲われたのか。
なぜ、夕闇ゆうえんちにいた人影はおもちゃをけしかけたのか。

なぜ、おもちゃに囲まれたこどもの絵を見て泣いたのか。
なぜ、手帳のページは真っ赤な血で濡れたのか。

わからないことが、多すぎると頭を抱えた。

「………まじでなんなんだよ……
 トビオは…………なんなんだ…………?」

6番目という意味、
それは少なくとも前に5人いたということ。
そして自分は何番目に位置するのか、
これがカルト宗教とどう結びつくのか。

わからない、わからないことしか、わからない。

「ダメだ…………もう寝よ。
 明日学校終わったら……駐屯地に提出すっかな……」

自室にあるプリンターからレポートを出力する。
神秘管理局からは裏世界に関係する内容については、
必ず管理局か貸し出されたプリンターでのみ出力するよう言われていた。

裏世界の情報を表世界へと流出させないための措置らしく、
特殊なインクが仕込まれたプリンターが排出する用紙には、
ぱっと見なにも書いていないように見えた。

あとはこれを提出すればいいいやと思って、
スマホの目覚ましタイマーをセットしてから、
デスクランプを消してベッドに寝転んだ。

心身ともに疲れていたからか、
眠気はすぐにやってきて、やがて意識は闇に落ちる。



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視界に映ったのはボロボロになった天井だった。
壁紙が剥がれ落ちており、朽ちているせいか穴が空いていた。
身体はというと、ひどい寒気があって震えている。

声を出そうとしたが声が出ない。
喉が枯れていると気づいたからだ。
動こうにも身体に力が入らなかった。

腕を視界にいれてみれば、
ひどく痩せ細っていて栄養が足りてないとわかる。
まさかいま自分は死にかけているのかと気づく。

なんとか身を起こして、水か食べ物を探そうとすれば、
周囲の朽ちた床に転がっていたのは、
色褪せて壊れたおもちゃたちだった。

その近くに落ちている、一通の見慣れた封筒。
いつもいつも届く白い封筒は、
両親からの手紙だと記憶していた。

そのそばには、薄汚れた古い手帳もあった。

力の入らない腕を精一杯うごかし、
ようやくの思いで封筒をつまみあげ、
震える指先で手紙を引き出す。

手紙に書かれていたのは──

『贄となる時が来た。
 我等の愛しい息子、翔雄よ。
 その身を捧げ、喜びに浸るがいい』

──たった三行の文章だけ。

そう認識した瞬間、
喉元に焼けるような痛みと熱があった。
なにがと思った瞬間には口から熱い液体がこぼれる。

床にぶちまけられたのは、真っ赤な色。
血だとわかったときには全身が脱力し、
顔面から血の床へとぶつけることとなった。

そのまま意識は混濁していき、
震える身体を冷たさだけが支配していき、
やがて何もかもが感じられない無へと帰った。



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「ううううわああああああ…………!?」



叫びとともに飛び起きた視界に入ったのは、
早朝の日差しが差し込んできた室内だった。
喉元に手をやれば、そこには無事な肌があった。

荒い呼吸を無理やりに整えてみれば、
脂汗をかいていることに気づき、顔を拭う。

「……あれが、6番目の……最期、だって、言うのか……?」



震えた声のつぶやきだけが、
静かな部屋にこだました。