RECORD

Eno.194 観音寺 悟々の記録

06:正論/うそつき

 神秘や怪奇を表沙汰にしてはならない。

 ……裏世界に関わるものが真っ先に教えられることのひとつ。
 解明と普及によって力を失うそれらは、不用意に表で存在を明らかにしてしまうことは許されない。

 当然のことである。
 理解できる話である。

 問題があるとすれば――――裏の怪奇存在を元に編み出したこの技の、行き場だけ。

 この技を表で使うことは、許されない。
 ピクシーの連打力を参考にした飛び込み多段突きも。
 スプライトの放電を参考にした変形足刀も。
 空飛ぶハンドスピナーを参考にした拳の揺らめきも。
 表沙汰にすることは、できない。
 名前と動きぐらいなら……という例外を、目こぼしすることはできても許すことはできまい。
 なにせ俺はそれらを体系化し、技術として身に着けようというのだから。
 コロニストも、管理局も、恐らくはカレントすらも究極的にはそうだ。
 彼らは表と裏の住み分けについて慎重な姿勢を取っており――カレントだけはいくらか“果敢”だが――俺の新しい技たちは、裏でのみ行使を許される。

 構わないと言えば―――――――――多分それは、嘘になる。
 構う。
 構うのだ。
 構うんだよ。

 だってそれはもう、俺の宇宙なんだ。

 俺はピクシーと戦ったんだ。
 俺はスプライトを殺したんだ。
 俺はハンドスピナーと出逢ったんだ。

 その事実に、“蓋をしろ”とお前たちは言うのか?
 俺の宇宙に、修正液を垂らすようにして空白を作れと、そう言うのか?
 俺の人生を、あいつらと出逢ったことが無いかのように取り繕えと、そんなことを言うのか?
 それは、そんなものは、あまりにも、甲斐の無い・・・・・話じゃないか?

 ……そうは思えど、わかっている。
 世界はそのような形をしている。ずっと。昔から。
 俺のこれはワガママなエゴに過ぎず、正論を呑み込むべきだと、頭ではわかっている。

 師匠の声が聞きたかった。
 どうしたらいいのかと、師匠に聞きたかった。
 導いて欲しかった。
 それは師匠とお別れしてから、ほとんど初めてのことだった。

 ――――けれど、あの老人はもういない。
 観音寺ゴゴは今、悩んでいる。
 この極めて個人的な感傷の飲み下し方に――――悩んでいる。