RECORD

Eno.160 琉華院 いのりの記録

『そういうこと』

「いのりちゃん家って、おっきいおうちすんでるよね」

「ねえねえ、りゅーかいんさんのパパやママは、どんなおしごとしてるの?」



おうちの話は、小さい頃からたまに話題にあがっていた。
けれど、あたしはその純粋な疑問に答えることはできなかった。


お父さんやお母さんがどんなお仕事をしているか。
それは本当にわからない。
『何してるかよくわからないけど街の外れにあるおっきくてりっぱなおうち』の一人娘。
詳しくはわからないけど、『そういうこと・・・・・・』になっている。




「いのりちゃんはまだ子供だから、お家のこととか、よくわからないわよねぇ」



……小さい頃は、それでよかった。









高等部2年。
そろそろ将来のことを考えなければいけない時期。
皆将来の夢とか、やりたいこととか、既に考えている。


あたしの未来は未だに白紙のまま。
どんな夢も、やりたいことも、あたしにとっては全部全部、遠い水面の上の出来事のように思えちゃう。
あたし、将来どんな大人になるんだろう。あたし、何がやりたいんだろう。
あたしが、あたしがもし。高校卒業した先の未来を歩むなら、あたしはどうなっちゃうんだろう。
……確かにお嫁さんにはなりたいけど、進路相談の紙にお嫁さんなんて書いたら、笑われちゃうかも。
もう子供じゃないんだから、って言われそう。








「………………あ、」




そっか。
そういうこと・・・・・・』にしちゃえばいいんだ。




「あたしは、高校卒業したら、『実家に帰って実家の家業を継ぐ』。」

「……うんっ!これなら進路相談の紙にもちゃんと書けそう!」

「……………………。」




そういうこと・・・・・・』に、できたらいいな。
でも、実家に帰ることは本当だもん。

……ちゃんと、できたらいいな。