RECORD
Eno.1718 田中・ジョン・D・アートマンの記録
前章
父が死んだ。
死期が近いと悟った或る日の父は私を連れて野を越え山を越え、谷を過ぎ河を渡って、国を越えて、山の町に世話になる。
父はそこで死ぬまで人に神を説いて、畑で働いて、詩を歌って、旗を織って、沢山の人に囲まれて
死んだ。
葬儀の前日に私は一人で巡礼した。丘の上の環の道を右回りに
高地の薄い空気の苦しさは不思議と無かった。
父は鳥葬を望んでいたので前々から仕度してあった。普通、身内は参列しないそうだが私は"呼ばれた"
高原、風の音と旗が羽撃く音、死臭が染み付いた土の香り
祈りが無数に巻かれた台に三人がかりで父を置く。脂の少ない体に刃を入れていく。最後の施し
斧を叩き付けて細かく裁断する。無数の目が今か未だかと私達を取り囲む
捧げ物の用意が出来たならその場から離れて『ほー』と呼びかけ手を叩く、
すると巨大な羽撃きが一斉に群がって父を覆い隠す。慣れた筈の鼻に一層強い父の香りが過ぎていった。
少しすると、丘の向こうから一際大きく黒い翼がやって来た。葬儀人がたいそう驚いた声を上げる
「御使いだ」
僧侶も葬儀人も皆跪く。
だが私は"呼ばれた"
御使いの目には光があった
『お前はどうする』
「主のように羽撃き、父のようになります」
御使いは一つ鳴いて葬列に加わった。
数分で肉は無くなって、残った骨はまた三人で細かく砕いて麦の粉や山羊乳のバターを混ぜて団子にする。
頭蓋も同じように、また脳味噌にも麦の粉をまぶす
そうして残らず鳥が平らげる。
天へ昇る父を見上げる。
父は、何処へ行くのだろう?
このどこまでも続く青空の向こうに楽園があるのか?
父は死の間際に言った
『いっぱい頑張った』
父は酒が好きだった
父は肉が好きだった
父は賭け事が好きだった
父は煙草を巻いていた
今日は風がある
「煙が天まで届かんねぇ……」
まだ父の香りが残ってる。時間が経てばその上に幾つもが重なってこの丘の匂いになっていくんだ
拡散していく、世界になっていく。
拡がりを見た。
死期が近いと悟った或る日の父は私を連れて野を越え山を越え、谷を過ぎ河を渡って、国を越えて、山の町に世話になる。
父はそこで死ぬまで人に神を説いて、畑で働いて、詩を歌って、旗を織って、沢山の人に囲まれて
死んだ。
葬儀の前日に私は一人で巡礼した。丘の上の環の道を右回りに
高地の薄い空気の苦しさは不思議と無かった。
父は鳥葬を望んでいたので前々から仕度してあった。普通、身内は参列しないそうだが私は"呼ばれた"
高原、風の音と旗が羽撃く音、死臭が染み付いた土の香り
祈りが無数に巻かれた台に三人がかりで父を置く。脂の少ない体に刃を入れていく。最後の施し
斧を叩き付けて細かく裁断する。無数の目が今か未だかと私達を取り囲む
捧げ物の用意が出来たならその場から離れて『ほー』と呼びかけ手を叩く、
すると巨大な羽撃きが一斉に群がって父を覆い隠す。慣れた筈の鼻に一層強い父の香りが過ぎていった。
少しすると、丘の向こうから一際大きく黒い翼がやって来た。葬儀人がたいそう驚いた声を上げる
「御使いだ」
僧侶も葬儀人も皆跪く。
だが私は"呼ばれた"
御使いの目には光があった
『お前はどうする』
「主のように羽撃き、父のようになります」
御使いは一つ鳴いて葬列に加わった。
数分で肉は無くなって、残った骨はまた三人で細かく砕いて麦の粉や山羊乳のバターを混ぜて団子にする。
頭蓋も同じように、また脳味噌にも麦の粉をまぶす
そうして残らず鳥が平らげる。
天へ昇る父を見上げる。
父は、何処へ行くのだろう?
このどこまでも続く青空の向こうに楽園があるのか?
父は死の間際に言った
『いっぱい頑張った』
父は酒が好きだった
父は肉が好きだった
父は賭け事が好きだった
父は煙草を巻いていた
今日は風がある
「煙が天まで届かんねぇ……」
まだ父の香りが残ってる。時間が経てばその上に幾つもが重なってこの丘の匂いになっていくんだ
拡散していく、世界になっていく。
拡がりを見た。