RECORD

Eno.115 古埜岸姉弟の記録

外伝 - 霧崖神代末記《 月と人形 》

月兎火ツキトビ
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霧崖国きりがけこくの神代末期を彷徨うモノ。
人々にあらゆる助言をする。
片手間に糸を紡ぐ。










「如何されましたか」


「チクショウ殿。
 それが……贄を捧ぐはずの家が、夫婦揃って夜逃げを……」


「それは、機が悪う御座りまするな」


「今すぐ妻の方だけを連れ戻し、拷問にかけます。
 神の元へ赴くのが良いと思うまで甚振れば……」


「いいえ、家族皆殺しておしまいになるのが宜しいかと。
 贄が死ねば、神は新たな贄に白羽の矢を当てまする」


「し、しかし……それは……
 贄にも限りがあって……」


「はて。掴みかねまするな。
 おらぬわけではありますまい」


「わ、我々の身内がそうなるかもしれない、ということで」


「おや。なら、より都合が良う・・・・・・・御座りまする。
 御主らの思惑通りに動かせましょう」


「今となっては贄も立派な兵に御座りまする。
 使い方を誤りませぬよう。
 『一度逃げた贄』などという反骨を彼の神に捧げてはなりませぬ」


「悟られまするぞ。
 いくら猛り荒ぶる有様とはいえ、
 冷や水をかけられては居住まいを正そうというもの」


「……そう、ですね。
 我らも覚悟を決めねばなりますまい」












「……この足跡は、新しゅう御座りまするな」


「引き摺った跡。
 お怪我でもされたかと。

 この森は数多の夜逃げを受け入れたそうですが、
 その多くが帰ることなく、今尚彷徨ったままと伝わりまする」


「放っておいても、
 獣か何かに追い立てられて死ぬでしょうな」


「では、これ以上は進まぬと?」


「お戯れを。
 屍を2つ、必ず持ち帰ります。
 我らには、父より賜った兵法がある」


「左様で。
 では御武運を」


「………………」


「父より賜った、で御座りまするか。
 それはいったい、どちらの父のことなのやら」












「……終わりましたか」


「躊躇いなく、呆気無きこと。


「正道の為、非道もまた良し。
 守る為殺し、奪うため捧ぐ諸刃の骨頂。
 流石は彼の神が育てた氏子らと言うべきで御座りましょうか。

 相応に御覚悟を決められたようで、
 最早、この畜生めの出る幕では無いやもしれませぬ」


「いや、まだもう一歩先にて必要で御座りましょうか。

 然りとて、親子似た者同士。
 共倒れの如く、滅びてもらっては甲斐が有りませぬ」







「朝まだき
 朝まだき

 人の夜明けは神の宵」







「……はて、啜り泣きが聞こえまするな」


「御主……巻き込まれましたか。
 このような死ばかり漂う森に放られては、唯の形代では居れますまい。
 ああ既に、綺麗な火が灯って──」


「人形や。
 御主の火の形……
 どうか、この畜生めにお教えくださりませ」


「その願い、あの月に届けて進ぜましょうや」















私の願いは

ご主人の愛した家が
ずっとずっと安全に
幸せに続くことであります!




ご主人



ご主人の
代わりに
奥様を守ることであります……



奥さ ま



ああ










「人形や。
 火を絶やしてはなりませぬ。

 暫しの間、拙者が『ご主人』の代わりになりまする。

 御主が甲斐を見つけるまで

 見つからずとも

 御主の身にひとつの喜びも無きことを
 拙者が許しましょう