RECORD
外伝 - 霧崖神代末記《 月と人形 》

月兎火
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
霧崖国の神代末期を彷徨うモノ。
人々にあらゆる助言をする。
片手間に糸を紡ぐ。

「如何されましたか」

「チクショウ殿。
それが……贄を捧ぐはずの家が、夫婦揃って夜逃げを……」

「それは、機が悪う御座りまするな」

「今すぐ妻の方だけを連れ戻し、拷問にかけます。
神の元へ赴くのが良いと思うまで甚振れば……」

「いいえ、家族皆殺しておしまいになるのが宜しいかと。
贄が死ねば、神は新たな贄に白羽の矢を当てまする」

「し、しかし……それは……
贄にも限りがあって……」

「はて。掴みかねまするな。
おらぬわけではありますまい」

「わ、我々の身内がそうなるかもしれない、ということで」

「おや。なら、より都合が良う御座りまする。
御主らの思惑通りに動かせましょう」

「今となっては贄も立派な兵に御座りまする。
使い方を誤りませぬよう。
『一度逃げた贄』などという反骨を彼の神に捧げてはなりませぬ」

「悟られまするぞ。
いくら猛り荒ぶる有様とはいえ、
冷や水をかけられては居住まいを正そうというもの」

「……そう、ですね。
我らも覚悟を決めねばなりますまい」

「……この足跡は、新しゅう御座りまするな」

「引き摺った跡。
お怪我でもされたかと。
この森は数多の夜逃げを受け入れたそうですが、
その多くが帰ることなく、今尚彷徨ったままと伝わりまする」

「放っておいても、
獣か何かに追い立てられて死ぬでしょうな」

「では、これ以上は進まぬと?」

「お戯れを。
屍を2つ、必ず持ち帰ります。
我らには、父より賜った兵法がある」

「左様で。
では御武運を」

「………………」

「父より賜った、で御座りまするか。
それはいったい、どちらの父のことなのやら」

「……終わりましたか」

「躊躇いなく、呆気無きこと。

「正道の為、非道もまた良し。
守る為殺し、奪うため捧ぐ諸刃の骨頂。
流石は彼の神が育てた氏子らと言うべきで御座りましょうか。
相応に御覚悟を決められたようで、
最早、この畜生めの出る幕では無いやもしれませぬ」

「いや、まだもう一歩先にて必要で御座りましょうか。
然りとて、親子似た者同士。
共倒れの如く、滅びてもらっては甲斐が有りませぬ」

「朝まだき
朝まだき
人の夜明けは神の宵」

「……はて、啜り泣きが聞こえまするな」

「御主……巻き込まれましたか。
このような死ばかり漂う森に放られては、唯の形代では居れますまい。
ああ既に、綺麗な火が灯って──」

「人形や。
御主の火の形……
どうか、この畜生めにお教えくださりませ」

「その願い、あの月に届けて進ぜましょうや」

私の願いは
ご主人の愛した家が
ずっとずっと安全に
幸せに続くことであります!

ご
ご主人

ご主人の
代わりに
奥様を守ることであります……

奥さ ま
ああ
あ
あ

「人形や。
火を絶やしてはなりませぬ。
暫しの間、拙者が『ご主人』の代わりになりまする。
御主が甲斐を見つけるまで
見つからずとも
御主の身にひとつの喜びも無きことを
拙者が許しましょう」