RECORD

Eno.712 茅鳴 ほみの記録

茅鳴直生の日誌 #6

科学のことが好きだった。
新しい知識を覚えていくことが快感だった。
世界の理を暴いていくことが心地よかった。

人にそれを教えることも好きだった。
人付き合いそのものは、好きでもなんでもなかった。

成績で悪いところはどこにもなかったから、
高校は地元で一番いいところに行って、多摩科連の大学に進学、
塾講師のバイトをしながら研究者を目指して大学院まで進んだ。
だけどきっと、それには向いていなかったんだ。

俺がやりたい研究は、どうにもつまらないものだったらしい。
同期やゼミ生はみんな、やりたいことをやりたいようにできているように見えた。
当時は俺だけが教授と衝突していたように感じていた。
眠りたくないのをネットに転がっている論文を読み明かしてごまかした。
タバコを吸い始めたのは、いつ頃からだったか。

もっと別の可能性があったんじゃないか。
それに目が向いたのは、こんなに遅くなってからだ。

今の俺には、神秘を知ってしまった俺には、
未知に対して探求や解明の情熱などなく、
ただひとりの少女の姿のものに執心する姿があるだけだ。

得体のしれないものと過ごす今、
あいつのために金を稼いだり、勉強を見たりする今、
なぜか少しだけ、充実を感じている。

タバコを吸うのに、わざわざベランダに行くことにも。