RECORD

Eno.340 月待 よすがの記録

無題

「だから、お前の事も諦めてないからな。」


「?……どういうこと?」


「少しでも元のよすがに戻すことだよ。
 言ったろ、どっちも楽しめた方が得だって。」





きれいなラムネの中に入ったビー玉。子供の頃の宝物を、親友が割ってしまったことがあった。
絶交だと泣き喚いたら次の日彼は仲直りの証に新しいビー玉をくれた。

「ちがう!他のビー玉貰ってもチャラにならないの!」


どうにか壊れた宝物を修復するために彼が必死に考えた方法を、昔も今も僕は否定した。
……まあ、結局あの時は三日もすればすぐにまた仲直りしたんだけど。それは多分また別のきっかけで。


新しいビー玉は大切にされていたビー玉の代替にはならない。それは不幸にも僕自身が証明した。

……残念だ。君の知っている月待よすがは、既に僕が殺してしまった。
覆水は盆に返らない。不可逆で元には戻らない。

だから初めから君の存在が煩わしいと思っていた。
いつまでも死んだ人間の話をしないでくれ。重ねないでくれ。
そうして過去を大切に抱えて生きているところは間違いなく昔から変わらない。鬱陶しくて仕方ない。

君がそうして諦めない限りは縁を切ることもままならないと思ったから、その勝負には乗った。
……結果は大敗だけど。もう二度と金魚すくいはやらない。

約束させられたのは「表の世界を出来る限り楽しむ努力をする」ということ。
他でもない君が言うなら、仕方ない。
これも結局息の根を止め損ねてしまった過去の自分の後始末。

だから残骸を取り除くために身を切るくらいの覚悟はあった。
少しは君の言う、元のよすがを取り戻してあげれば気が済むんだろう。なら、やってやるとも。

あの時のまま人生を歩いて、進んで、今に繋がったかもしれない"もしも"の自分。
それを手繰り寄せて、その仮面を着けてみせよう。