RECORD

Eno.426 䝰甾 うのはなの記録

白蛇の神秘

金運のかわりに、買いたいものを買えない神秘。


だと、思っていたけれど。
「もし、この神秘が優しさによってもたらされたとしたなら」…それを信じようと試みるなら。

それを前提としたとき、思いだされる言葉がある。

何もしらないさ!まだ、何もしらないよ!

(男の返事は、ほとんど歌うようだった。)

いいかね、スズランちゃん!可愛い坊や!
世の中には、自分の思い通りにならないことがあったほうがいい。
絶対においしいとおもったお菓子を買って、
口が曲がって吐いてしまってもそれはそれでいい。
そんな不味いお菓子が、まあ少なくとも、
ケーキひとつは誰かの口に入ったのはいいことだ。
そんなものを、売っている奴の心にも、慰めになる。
失敗して、罵って、転がり回って、
それでもうまくいかなくて泣き伏した時、
ああ、可愛いスズランちゃん!
それはね、君のやりたいことや、本当はこうしたかったことを、
君の大好きな人たち、君のことを大好きな人たちが。
手伝ってあげられる機会を寛大にも与えてあげられるということだ。
そうじゃあないかね?



………


………もう少し、全ての価値を信用すべきですね、俺は?



俺は、そのとき、そう答えたはずだった。

…………俺たちは、欲しいものを買えていたのかもしれない。
「その選択は間違いだった」と、最初にその買い物を指さした声を、俺たちは……
俺の一族たちは、素直に信じすぎているのかもしれない、と、思う。

だって――――俺は、嫌いじゃなかった。意味のない壁も、乗れない車も、フィルムの入らないカメラも、柄のついたカーテンレールも、
愛嬌のある招き猫も、ロティサリーチキンを回すやつも、ピンクのロールスロイスのタクシーも、大きな燻製器も、ビルの前のアヒルの像も、家族がそろったオフィスビルの団らんも………
ちゃんと、誰かが喜ぶところや、驚くところ、自分がしみじみと使ってみるのは、うれしくて、好きだった。

たぶん、よくわからないところを開拓したり、中身がない蔵を建てたひとも、
揶揄われたりばかにされたりしたのは嫌だったろうけど…
住んでいるうちに、好きな家になったんじゃないかと思う。
別に名家とかそういう自負があるわけでもないうちの一族が、なんとなく、ずうっとその土地を持っているのだから。
もしかして、捨てがたいくらいには、代々好きな家になっているってことじゃないのか。

がっかりしているなら、「白蛇にやさしくしなさい」なんて言い伝えは、さっさとどこかの世代で忘れているのじゃないか。


もしこれが、白蛇のやさしさでもたらされた神秘なら、ものごとはもっと単純で、

「買いたいとおもったときに、買える」

これは、そういう神秘なのかもしれない。
……ただ、俺たちの趣味が、ちょっとだけ変わっているだけで。
そのわりに、俺たちは、自分に自信がないだけで。

必要とか、買わなきゃいけないものとか、そういうのを一旦置いておいてしまえる。
そういうふうに、働いている加護なのではないか、と、
気づいたとき、妙に、手ごたえを感じた。

そうだよな。
裏世界の神秘のひとたちって、あんまり、表のことわかってなかった。
人間に都合の悪い加護、なんて面倒なことはしない方が、よっぽど自然に思えた。

白蛇の加護
『有益な使い方はできない金運』
あらため、
『欲しいものが買える金運』
ただし、一般的でない趣味を窘めたりはしない。






----そういうわけで、非常に覚悟がいったのだが----

ケリをつけにいった。

「うん。好きだよ。特別な意味で」




詳しくは明日の俺に任せます。
なぜなら、今日はすべてを使いつくしたので。
おやすみ。