RECORD

Eno.232 月影誠の記録

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アヤメのことは、始めは気が弱くて、クラスにもなかなか馴染めないだろうなという印象だった。
俺が小、中学生と健全な学生生活を送ることができたのはクラスメイトに恵まれたからだった。
だから親近感を覚えて、気にかけて。自分が眺めていたい平穏な日常のために。
ちょっとだけ背を押して、ここに馴染む手伝いをしようと思った。


勉強会でお互いに遅れたタイミングでやってきて、二人でラウンジでご飯を食べた。
性格からは想像できない通り、案外行動派だということを知った。
結構色んなお店に足を運ぶし、アウトドア派らしい。
内気で体育が苦手だからといって、インドア派だとは限らないらしい。
前から話してみたかったから、話せて良かった。
そのタイミングでは結構クラスには馴染めているとは思っていたけれど、
まだどこか遠慮がちだったなあと思う。


俺が調子を崩したときに、雪宗とひばりと共に部屋までやってきたこともあった。
自分のことなんか放っておいてくれればよかったのに。会いに来なくて良かったのに。
気にかけないで、それぞれの日常を歩んでほしかったのに。
何より。引いたとはいえ、本能にかき回された後だ。
手負いの獣というものは、気性が荒いから何をしでかすか分からなくて、怖かった。


ここで話の成り行きから、自分の最悪の趣味を明かすことになって。
優しくない人間が、優しく在ろうとしているのだと告げて。学校に生き辛くなったことも話して。
……拒絶されなかった。なんならちょっとした叱咤を受けた。
はっきりと彼女に印象が変わったのは、ここからだったと思う。
彼女は芯が通っていて、真っすぐで美しい人間だった。
存外に行動力があって、手を差し伸べることができる人間だった。
正しく、優しい人間だと思った。




「強い人間だなあ、って思うんだよ」


クロ
『…………そうか』


クロ
『お前、京の話をしなくなったな。喧嘩別れしたか?』



「そもそも学校をサボりまくって顔を見ぃひん」


クロ
『そっかぁ』





「……ずっと違和感を感じてるんだよ。
 もう十分、アヤメは境界線の向こうにいられるのに。
 俺の側には居なくていいはずなのに。
 祭りでも、放課後でもそう。仲のいい友人が居て日々を楽しんでいる」



「―― 今、俺とアヤメはそれぞれ境界線のどこにいると思う?」



相棒と裏世界の満月を見ながら、判別がつかないこれを語った。
相棒はふむ、と言いたげに鼻を鳴らし。深く深く息を吐いた。

クロ
『境界線で隔たれていて。
 そいつは向こう側、小僧はこちら側。そして』


クロ
『境界線の上で、手を繋いでいる』


クロ
『……お前の話を聞く限り、そう思うぞ』




―― 相棒の身体の紅が、月の光に照らされて神々しく輝いていた。