RECORD

Eno.255 川原の記録

水底の泡

――焼けたのう。
――うむ……
――小雨も降らせられんとは。
――氏子もおらんしのう……
――吾ら、いかにする?
――この地、山神の領分であろ。
――土地の奪い合いはしとうないぞ。
――うむ。
――人の子ら、もはや吾らには祈らぬでな。
――成るか。
――なんと成る?
――水に所縁あらばなんとでも。
――河童か。
――河童か?
――河童か!?
――人の子ら、あれらは好むぞ。
――膾炙人口という。
――なればそのように。
――うむ。
――人に化けるは許されるか?
――刃傷沙汰起こさねば許されよう。
――金物傷はまずい。



――死ぬかと思うた。
――うむ……
――なにゆえあのように弱る。
――散切り頭か。
――うむ。
――皿か?
――吾ら、河童ゆえな。
――芯と定めればそうもなろう。
――うむ。
――僧形を真似るか?
――いや……
――いや……
――僧形なれば天狗と混ざりかねん。
――そも吾ら浄土へは至るまいに、知っての僧形は聊か礼を欠こう。
――うむ……
――ただの禿頭はどうか。
――今の世にそぐわぬやもしれぬ。
――いつかは。
――そうさな、いつかは。



――増えた。
――増えたのう。
――うむ。
――よもや増えるとは思わなんだ。
――吾らとは分けてやらねばなるまい。
――なんと呼ぶ?
――ううむ……
――坊。
――若。
――名付けは避けよう。
――吾らが定めるものでもあるまい。
――若とするか。
――うむ。
――若は陸へ上がるか?
――わからん。
――人の子の読み書きは教えんと思うがいかに。
――よろしかろう。
――うむ。