RECORD

Eno.194 観音寺 悟々の記録

09:機関/けいやく

 俺は進路を決めた。

 月曜日。
 俺は、カレントコーポレーションへの所属を申請した。

 理由は、まぁそう難しいものではない。色々とありはするが。
 ただ大きなひとつは、単純にアザーサイドコロニストや神秘管理局は肌に合わず、カレントが最も肌に合いそうだったということだ。
 ビジネスライクに利益を追求し、報酬と労働の関係で繋がるカレントはかなり気楽で、居心地がよさそうに思えた。
 あるいは居心地が良すぎる・・・・ようにも思えたが、それはそれで己が手綱をしっかと握ればいい話。
 そこも含めて、やりやすそうだった。

 決めてしまえば後は早い……と言っても土日に手続き業務をやらせるのは忍びなかったので月曜になってからインターンシップ登録を行ったのだが。
 元々どこも人手不足、という話は聞いていたがそれは真実だったようで、俺はあっという間に受け入れられた。


「それでは――――弊社への所属を志望した動機はなんでしょう?」

 だから、そのまま行われたそれは面談と言うよりも、意識調査とでも言うべきものだろう。

「ああ、気軽に答えてくだすって結構ですよ。我が社としても、貴重なインターンシップ生とのミスマッチは減らしたい、というだけの話ですから」

 カレントコーポレーションの一室を使って、人事担当の社員と椅子に座って向かい合う。
 必要な書類の確認と共に、いくつかの説明と質問をされた。
 規則について、組織構造について、俺の神秘について、依頼について……
 そして最後に出てきたのが、この質問だった。
 聞かれる可能性を事前に想定していた俺は、それでも僅かな逡巡を経てから、素直に答えた。

「……異世界に行きたいんだ」

 目標。
 目的。
 けれど、人生のゴールではないもの。

「表と裏のことでなく、裏にあるという異界の話でもなく、完全な別世界への渡航に興味がある」

 その存在については、異世界からやってきたという友人たちが証明となる。
 彼らが嘘をついている可能性や、彼らの自認が誤っている可能性もあるにはあるが、俺は基本的に異世界の存在を無邪気に信じていた。
 そして俺は、それを見たいと思っていた。
 行きたい、と思っていた。
 際限なく広がる俺の宇宙に――――異世界も取り込んでしまいたいと、そう思っていた。

 管理局は、これを嫌がるだろう。
 普通に考えれば世界間渡航には様々な問題がついて回る。
 原住民との軋轢、異世界からの侵略、異世界というカオスを取り込むことによる神秘反乱リスクの増大……
 だが同時に、そこには多大なメリットがある。
 単純な土地や資源、技術的な利益をさておくとしても、現在でも不定期に発生している異世界からの流入リスクへの対策として異世界の研究は有効で、必要なはずだ。
 だから、機関は異世界について調べているはずで。
 そしてカレントは、その辺りに最も意欲的な組織であるはずだ――――という予測から来る志望動機。
 なんのことはない。
 俺は俺のエゴのために、機関を選んだのである。

「あと、それに伴ってもうひとつ――――」

 そしてこれも、やはり。
 目標。
 目的。
 けれど、人生のゴールではないもの。


「――――――――――――――――仙人に、なりたいと思っている」


 俺は人間をやめたいのだ・・・・・・・・・という意思を、正直に伝えた。

 俺の“意識”は受け入れられた。
 少なくとも、表面上は。

――――――――…………




 ぱらり。
 資料の束をめくる音。

「ふぅん……異世界に、仙人ねぇ……」


「――――面白いじゃあないか。
 そいつ、ぼくの下にくれるかい。ちょうどいいだろう?」



 承認手続きは、すぐに終わった。